Merak・6

ジャギがケンシロウに敗れた一件は
すぐさまラオウに伝えられた。
義弟同士の殺し合い。
ラオウは眉一つ動かさず、部下の報告を聞いている。

「アミバはどうしている?」
「はい。相変わらず村に籠り
 何やら進めている様子。
 如何致しましょうか?」
「ケンシロウは次にあの村を目指すだろう。
 嘗て【奇跡の村】と呼ばれし場所。
 アミバには事前にその旨伝えておけ」
「御意」

伝令の部下が恭しく首を垂れ、その場を後にする。
部屋に残ったのはラオウ、そして二人の武将。

「この後、どうなされるおつもりか?」

ソウガの声掛けに、ラオウは視線だけを送る。
直ぐに返答をする気は無いらしい。

「奇跡の村の崩壊について
 未だトキには伏せてある。
 しかし…ケンシロウがあの地に赴くとなると
 いずれはトキの耳にも届こう」
「…だから、どうした?」
「元はジャギが独断で行った事だ。
 あの村の崩壊も、アミバの横行も。
 しかし貴方はあの者達を部下として招き入れた。
 それは即ち…」
「構わぬ」
「ラオウよ。ジャギの不始末、己で拭うつもりか?」
「諄い。二度は言わぬ」
「軍師ソウガよ。拳王様もこう仰っているのだ。
 そろそろ矛を収めては如何か?」

ラオウは義弟ジャギの不始末を
自身の命令の結果とするつもりの様だ。
拳王の命令で奇跡の村は崩壊した。
もしもそれをトキが知る事となれば
彼は勘違いしたまま拳王を、ラオウを憎む事になる。
ソウガはそれを危惧していた。
彼にとって二人は大切な幼馴染であり
出来ればこの二人の闘いを避けたいとすら思っていた。
しかし、少なくともラオウにその気は無い。

『矛盾している』

軍師として、ラオウの決断が理解出来ない訳ではない。
寧ろ理解出来るからこその歯痒さが有った。

「この件に関しては私がトキに伝えましょう。
 恐らく、それが一番妥当かと」

名乗りを上げたのはリュウガであった。

「事実に激昂したトキが
 そのまま襲い掛かって来るかも知れんぞ、
 リュウガ」
「なに。その時は反撃でもするさ。
 確かに恐るべき拳の使い手ではあるが
 まだ本来の力を取り戻してはおるまい。
 それに…其処で殺される様であれば
 俺が未熟だからに他ならん」

ソウガの忠告にリュウガは涼しげな表情を浮かべた。
ジャギの死。奇跡の村の崩壊。
そしてこれまでの流れ。
全てをトキが知る所になれば
彼は一体どんな反応を示すのか。
それは…誰にも判らない事であった。

* * * * * *

伝令はアミバの下を訪れると
ジャギの死、そしてケンシロウの目的を簡潔に告げた。

「そうか。死んだか…。
 了解したと拳王に伝えてくれ」
「承知致しました」

トキに成り代わっているアミバの正体を守る為
伝令はあくまで彼を【トキ】として対応した。

「…ふん」

誰も居なくなった室内でアミバは溜息を吐いた。

「随分と勝手ではないか、ジャギ。
 お前が依頼した新秘孔、
 あと少しで発見出来る所まで来たのだぞ。
 漸く日の目を見たその時には
 拳王様よりも先にお前に授けてやろうと
 楽しみに待っていたんだがな」

壁に貼られた人体図に向かって
ダーツの要領でナイフを投げる。
的は心臓。綺麗に刺さっていた。

「お前の無念を晴らしてやりたいなんて
 女々しい気持ちは一切持ち合わせてないが
 どうせ闘うのであれば
 ケンシロウを木人形にして完成させてやろう。
 お前が待ち望んでいたあの秘孔をな。
 それがせめてもの手向けだと思え」

やがてゆっくりと立ち上がり、
壁に刺さったナイフを乱暴に引き抜く。
何事も無かった様に椅子に戻ると
ゆっくりと腰掛け、扉を見やった。

「さて、そろそろ木人形共がやって来る。
 この俺に使われる為だけにな」

アミバの見せるこの表情に
聖者と呼ばれたトキの面影は
微塵も存在しなかった。

[5]  web拍手 by FC2   [7]

SITE UP・2017.01.17 ©森本 樹



【ROAD Of MADNESS】目次
H