Merak・8

あの日、ジャギは何処か上の空だと感じていた。
何かを悟られまいと、必死に隠していた。
気付かない筈が無い。兄弟なのだから。
余りにも不憫な弟。彼を守れなかった事。
それが、トキの心を支配していた。

ラオウの内から同じ物を感じ取る。
彼も又、ジャギの名誉を護る為に。

「北斗神拳は暗殺拳。
 そして我等兄弟は殺戮者。
 時代は流れても、これだけは事実」

トキは静かにそう語った。

「それでも…抗いたかった」
「一体何に?」
「…己の、運命に」

殺戮者が己の暗殺拳を応用して
人の為に生きようとする姿。
あまりにも滑稽で、あまりにも道化。
しかし、トキはその道化に徹しようとしている。
悲しい迄に、真摯に。

『これが…トキの真意。トキの選んだ【道】か』

目の前のトキの姿があの日の母親の姿と重なる。
幼いケンシロウ兄弟を助ける為に
燃え盛る炎に向かって駆けて行った母親。

『母者よ…。貴女の魂は、
 息子トキの中で生き続けていると言うのか』

ラオウは何も言わず、力任せにトキを抱き締めた。
彼も又、そのままラオウの胸に顔を埋める。
何も言葉が出てこない。
何も言い出す事が出来ない。
まるで彫刻にでもなったかの様に
その場で抱き締め合う事しか出来ずにいた。

* * * * * *

「【治療】は、まだ有効か?」

トキからそんな事を切り出すのは意外だった。
態々【治療】と前置きを入れてはいるが
要は『抱いて欲しい』と云う要求に他ならない。

「無論だ」
「それでは…」
「偶に其方から仕掛けてみてはどうだ」
「?」

意味が解らない、と表情で訴えてくる。
ジャギもよく零しておったが
トキは色恋沙汰と云ったものにまるで理解が無い。
あれでは折角女にもてても意味が無い、と。
訓練と勉学に明け暮れた修業時代。
一途なまでの情熱を修練に向けた結果が…
この有様である。

「この俺を労う気は無いのか?と聞いておる」
「それは…勿論持ち合わせているが、その…」
「その、何だ?」
「どうすれば良いのかが判らないんだ」

盛大な溜息が我が口から洩れた。
男同士で今迄散々しているのに
手技も何も学んで無かったと云う事か。
流石に呆れ返って二の句が継げん。

「ラ、ラオウ…。その……」
「では俺が言う様にやってみろ。
 そしてそのやり方を覚えておけ」
「解った……」

自信無さげな返事。
何とも頼りなさそうな表情。

「では先ず」

自身のズボンを緩め、
硬くそそり立つ剛柱をトキの眼前に晒す。
完全に硬直しているトキに構わず
その剛柱を口元に宛がった。

「その口で奉仕してみせよ」
「く、口で…?」
「何も気を吸収するのに
 後孔しか使えないと云う事は無い。
 使える場所は積極的に使わぬとな」
「う……」
「どうした? 治療を受けるのだろう?」

ワザとこの様に煽ってやると
全身を紅潮させて睨みつけてくる。
精一杯の背伸び。
あの頃に戻ったかの様に、
少しだけ心が穏やかになる。

こんな時代で無ければ、
こんな状況で無ければ、
結ばれる事は無かったかも知れぬ我等兄弟。
何とも…皮肉なものだ。

* * * * * *

こんな無理難題を
押し付けて来るとは思わなかった。
悪戯心から発された言葉なのだろうか。
だが目の前に在る物は余りにも巨大で
正直どうしたら良いのか戸惑ってしまう。

自分も何度か口でされた事は有る。
よく躊躇無く出来るものだと
目の前の男の威風堂々さに感心した。
しかしそれをいざ自分にやれと言われると
流石に困惑せざるを得ない。

「どうした?」

催促だろうか。こうなると逃げられない。
観念し、口を大きく開いてそれを咥える。
余りの熱量と体積に身体が萎縮する。
それでも言われるままに舌を動かしてみた。
頭上から的確な指示が飛んでいるが
口いっぱいに頬張っている為か呼吸が出来ず
やがて意識も朦朧となってくる。

下手だと思われているだろうが仕方が無い。
こんな事…そもそもやった事すら無いのだから。

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SITE UP・2017.01.22 ©森本 樹



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