Megrez・1

ケンシロウが単独で先に進んでから3日目。
手前の村での待機を余儀なくされた事に
バットはかなり立腹の様だった。
だが、その判断は間違ってはいないだろう。
この先には聖帝、サウザーの居城が在る。
彼は何故か子供達を攫っているとの噂が
こんなに離れた村に迄届いている状況だった。
ケンシロウがバットとリンの事を案じていたのは
当然と言えば当然の事。

『ケンシロウにとってこの二人は正に家族。
 兄弟とも呼ぶべき存在になっている』

トキも又、この村への滞在を選択した。
バットとリンの傍に居たかったのも事実だが
何よりもケンシロウの思うままに行かせたかった。
自分が傍に居れば
彼は自分を優先しようとするだろう。
だが、それを許す程サウザーは甘い男ではない。
隙を見せれば間違い無く襲い掛かってくる。
血に飢えた獰猛な獣。

『サウザーとの対決は避けられないだろう…。
 それがあの男本来の願望かどうかは解らぬが
 此処迄軌道を外した六星の流れを戻すには
 最早それしかないのかも知れん』

トキは鍛錬を続けるバットの姿を見守りながら
ふと昔の事を思い返していた。

『シュウは、どうしているのだろうか?
 あの男が此処迄の騒ぎで動かないのは
 何かの考えがあっての事か…。
 それとも、既に動いているのか…』

それを確認する事も叶わない。
今の自分では。
それが何よりも歯痒かった。

『私は導くだけの存在…。
 ケンシロウと云う星の側で輝く輔星…』

「トキ様」

遠くで誰かがトキを呼ぶ。
この村の住人だ。
きっとまた、患者が訪れたのだろう。

「判った。直ぐに其方に向かうから」
「お客さん?」
「その様だ。バット、そのまま続けておいてくれ」
「どれ位?」
「そうだな。最低でも後500回」
「うわっ! まだそんなにあるのかよぉー!」

苦笑いのバットに笑い掛け、
トキは自分達に宛がわれた一軒家に向かった。

* * * * * *

「以上が、サウザー周辺の報告となります」
「御苦労。引き続き様子を伺っておいてくれ」
「御意」
「拳王様、如何なさいますか?」

ソウガの言葉にラオウは無言で彼を見た。
ケンシロウとの死闘で傷付いた体は
まだ万全の仕上がりと呼ぶには遠い。
尚且つ、サウザーには
秘孔が通じないと云う噂が有った。
友好条約を結ぼうとサウザーが打診した時から
彼の裏切りは予期していたが
この状況だと「やはり」と云うべきだろう。

「ユダめ。とんだ置き荷物を…」
「ふん。奴も所詮は南斗六星。
 いざと云う時は自身の星を選んだと見た」
「サウザーも然り、ですな。
 奴等の望みは所詮この地の平安では無かったと」
「…寧ろ乱世を望んでおったのかもな。
 その為にこの拳王を利用したか」

ラオウはゆっくりと椅子から立ち上がると
小さな声でこう言った。

「暫く場を空ける。
 拳王不在を周囲に悟らせるな。良いな?」
「…御意。だが、『程々に』な」

ソウガの意味深な返答に対し
ラオウはまるで子供の様な
無邪気な笑みを浮かべた。

* * * * * *

この村からは南斗の星々がよく見える。
殉星、義星、そして妖星。
この乱世に飲まれ、消えていった星々。
そして今も尚、力強く輝く将星と仁星。

「あの星は?」

リンの指差す先に淡く輝く星。
トキは目を細め、静かな口調で告げた。

「あれは…慈母星」
「慈母星?」
「南斗六星、最後の星だ」
「最後の星…。
 やっぱりケンと戦う事になるのかしら?」
「それは……」

トキが続けようとした、その時。

「トキ様! いらっしゃいますか?」
「…急患の様だ。リン、手伝ってくれるかい?」
「はい!」

途端に部屋の中が慌ただしくなる。
何時患者が駈け込まれても良い様にと
トキとリンは慣れた手つきで支度を始めた。

[3-10]  web拍手 by FC2   [2]

SITE UP・2017.03.31 ©森本 樹



【ROAD Of MADNESS】目次
H