Megrez・2

何年ぶりの再会であろうか。

記憶よりは多少皺が増えた印象を受ける。
彼も又、同じ様に思っただろうか。

「御無沙汰しております、トキ様」
「リハク殿…」
「お噂は兼ね兼ね…」
「お久しぶりで御座います、トキ様」
「トウか…。立派に成ったな」

トウと呼ばれた蒼い髪の女性は
スッと頭を下げると、
鎧姿の人物に何かを語る。

「実は折り入って
 トキ様にお願いが御座います。
 我が将の事を…」
「貴女が、南斗最後の将…ですな。
 どうぞ此方へ」
「?」
「此処に態々来られたという事は…
 私の治療を受ける為、だろう?」

鎧の人物は静かに肯定の頷きを示した。
トキも柔らかな微笑を浮かべて
ベッドに腰を掛ける様に促した。

「あれ? 仮面は取らないんですか?」

リンの問い掛けも尤もな事だったが
トキは首を静かに横に振った。

「取らずとも治療は可能だ、リン」
「そうなんだ…。
 それならこのままでも良いのね」
「申し訳ありません。
 今はまだ、この仮面を
 取る事は出来ないのです」
「? 女の、人?」

リンは初めて聞く
最後の将の声に驚きを示した。
慌ててトキの顔を見上げるが
彼は少しも驚いてはいない。

「少し眠くなるかもしれないが…
 その時は無理をせず、
 眠ってもらっても構わない」
「はい。宜しくお願いします」

トキはそのまま治療をすべく
気を張り巡らし始めた。

* * * * * *

「少し、話をしても宜しいか?」

治療後。
トキはそう話を切り出した。
そして懐から何かを取り出す。

「それは…?」
「遺髪だ」
「遺髪…?」
「あぁ。義の星を司る
 南斗水鳥拳の使い手、レイ。
 御存じだろう?」
「はい…。それは、レイの…」
「託されていた。貴女に渡して欲しいと」
「レイが……」
「『貴女に会えて良かった。感謝している』
 そう伝えて欲しいと…」
「……」

最後の将はレイの遺髪を無言で受け取った。
だがその仮面を擦り抜ける様に光が落ちる。
確かに彼女は泣いていた。
リンはこの不思議な女性の事を
もっと知りたくなった。
寧ろ知らなければならない様な気がしていた。

「ケンシロウはサウザーを倒すつもりだ」

トキの放った一言に場の空気が一瞬凍る。
リハクやトウも表情を一気に強張らせた。

「何故、その事を我々に…?」
「同じ南斗の者と云えど
 貴方達とサウザーでは目的が違う。
 私にはそう見える」
「それは…」
「我々と同じとまでは言わない。
 だが、この乱世を治めたい思いは…
 極めて近いと感じている」
「貴方は…ラオウとは違う、と?」
「さぁ、どうだろうか」

リハクの言葉に対し、トキは曖昧に返した。
発言の真意が掴めず、リハクは困惑した様だった。

「ラオウの真意は私にも解らない。
 だが、サウザーが危険な存在となった事は
 私とラオウの共通認識ではある。
 兄弟だから、と云うのであれば…
 そうかも知れん。
 恐らく、ケンシロウも…な」
「ケンシロウが……」

しみじみと紡がれたケンシロウと云う名前。
最後の将は、そっと手を握り締めていた。
そしてその姿をリンは黙って見つめている。

『この人は…ケンを知ってるんだ…。
 そしてトキさんは、この人を知っている。
 ケンは…この人の事を知ってるのかな?』

自分の想像とは大きく違う最後の将の姿に
リンは多少なりとも驚いている様だ。
それを察したのか、トキはリンを呼び寄せると
その頭を優しく撫でた。

「大丈夫だ、リン。
 この人達はケンシロウの敵にはならない。
 絶対に、な」
「本当?」
「あぁ。私を信じなさい」
「トキ、その子は…?」
「ケンシロウに救世主としての
 使命を目覚めさせた運命の娘だ。
 名前はリン」
「リン…。リンと、言うのね」

最後の将は感慨深く、その名を呼んだ。

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SITE UP・2017.04.02 ©森本 樹



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