Megrez・10

「私は此処から歩いて行くとするよ。
 途中で寄る場所が在るから」
「そうなんだ。じゃあ此処で一旦お別れだな」
「本当に一緒に行かなくても大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。
 お前達こそ、充分に気を付けて。
 バット、リンの事を頼むぞ。
 くれぐれも深追いをせず、必要有らば…」
「先ずは逃げろ、だろ? 解ってる。
 俺達はまだ死ぬ訳にはいかないもんな」
「そう云う事だ。ならば大丈夫だな」

トキはそう言うとバットの車から降りた。
彼等の安全を思うと同伴が一番無難だろう。
しかし、もしも敵がトキをターゲットにするならば
逆に彼等を危険に晒す事になる。
あくまでも敵側にターゲットを自分に絞らせ
単独行動で彼等の目を引き付けられれば
寧ろ子供達を自由行動にさせる事で
目的地への潜入がし易くなる。
暗殺者訓練を積んだ者故の知恵が成せる業だった。

「旅の無事を願っているよ、バット。リン」
「トキさんも気を付けてね!」
「また会おうな、トキ!」

広大な砂漠で彼等は別れた。
其々の目的の為に。

* * * * * *

「全く、どうしたものか」

拳王の間にて、ソウガが苦笑交じりに皮肉を述べる。
ラオウは全く動じていない。

「捨て置けば良かったものの。
 或いは、他の者が手を貸すであろうに」
「……」
「いずれは我等が障害となる。
 それを理解して尚、剰え手当など…」
「その方が面白かろう」

ラオウはフッと鼻で笑った。

「ケンシロウの事だ。あの諦めの悪い男の事。
 一度の敗退でサウザー打倒を諦める筈が無い」
「しかし二度は無いぞ、ラオウ。
 次の敗北では間違い無くケンシロウは処分される」
「二度の敗北も、まだ決まった訳ではない。
 サウザーとて秘孔は効かずとも、
 連戦により消耗はしているだろうからな。
 多少卑怯な手を講じても倒さねばならぬ男よ」
「ほぅ。非道に徹する決意を持ったか。
 それでこそ拳王。この覇道に情けは不要」
「ケンシロウがサウザ―を倒すも良し。
 倒せずとも、二手三手は用意しておる」

ラオウはそう言うと椅子から立ち上がった。

「軍を招集させているか?」
「命令有れば直ぐに出立出来る様
 準備は整っている」
「リュウガは?」
「遠方の反乱を鎮めている最中だ。
 もう暫し時間が掛かると報が入った」
「リュウガの軍に期待は出来ぬか。
 まぁ良い。それも想定内だ」
「トキは…呼ばぬのか?」

ソウガの問い掛けにラオウの眉が少し動く。

「何故にトキを?」
「サウザーの体の謎。
 トキであれば見抜くのではないかと思ってな。
 奴は医者を生業としている。或いは…」
「あれが我が覇道に手を貸す事は無かろう。
 トキからすれば、我が所業もサウザーと変わるまい」
「そうであろうか?
 トキが我が軍に加われば
 100万の兵を得たも同然と云うのに…」
「トキにはトキの戦いが在る。
 奴はそれに備えれば良いだけだ」

ラオウはゆっくりとソウガの方に向き直る。

「トキをサウザーにくれてやる訳にはいかん」

意味深な言葉だった。
あくまでもトキは自分の獲物なのだと云う事か。
兄弟としてよりも、好敵手として。
強敵(とも)として。

「それこそが修羅の血の成せる業か」
「如何にも」
「トキもやがては目覚めるのだろうか?」
「必ず目覚める。そして我が前に姿を現すだろう。
 弟としてではなく、
 修羅の血を受け継いだ拳士として」
「恐ろしきは北斗の宿業よ…」

ラオウは笑みを絶やさなかった。
その決意が固い事、そして何よりも
ラオウがトキとの対決を心待ちにしている事が
ソウガにも手を取る様に理解出来た。

「その前にも、先ずはサウザーだな。
 シュウのレジスタンス軍だが、
 これは正直期待出来ん。
 サウザーはシュウの性格を
 熟知しているからな」

ソウガは気を取り直し、
サウザー軍の対策案を打診してきた。

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SITE UP・2017.04.27 ©森本 樹



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