Alioth・10

「いよいよ…か」

ソウガの呼び掛けにラオウは小さく頷いた。

「此処迄…長かった」
「あぁ。だが、間もなく終わる。
 俺かトキ。
 天に選ばれし者が海を越えて行けば良い。
 後は我等が母なる大地が導いてくれようぞ」
「討てるのか? 実の兄、カイオウを…」
「必要とあらば。
 その為にもトキとのこの一戦、
 避けて通る訳にはいかぬ」
「呪われし血の宿命に終止符を、か…」

ソウガはそう呟いて頷いた。

「ん?」
「リュウガであろう」

ラオウが言う通り、
扉を開けて入って来たのはリュウガであった。

「拳王様。軍の手配が整いまして御座います。
 どうか出立の号令を」
「……」

ソウガは無言でラオウとリュウガを見つめている。

「トキ一人討つのに、軍は要らぬ」
「し、しかし…っ!」
「リュウガよ」

ラオウは静かな声で語り掛ける。

「うぬも人の【兄】であれば解る筈だ」
「拳王様…」
「リュウガ。私も妹を持つ一人の兄である。
 拳王は兄として、
 弟であるトキと闘うと述べておられる」
「兄として…」
「漢と漢。一対一の真剣勝負。
 邪魔立てすべきでは無い」
「拳王様…」
「リュウガよ。うぬの気持ちは受け取っておこう。
 しかしこの拳王、トキに討たれる訳にはいかぬ。
 我が覇道は未だ道半ば。
 この手で天を掴む迄、倒れる訳にはいかぬのだ」

ラオウの決意にリュウガは恭しく首を垂れた。

「ではその対決に水を差さぬよう、
 南斗の軍の足止めに参ります。
 宜しいでしょうか?」
「うむ。許す」
「ありがたき幸せ。拳王様、御武運を…」

リュウガは再度一礼すると
静かに部屋を後にした。

「生真面目な漢よ」

ソウガの一言にラオウは苦笑を浮かべた。

『意外に似ているものだな。
 リュウガ、そして…ユリアよ』

懐かしさが後ろ髪を引く思いを抱きながらも
ラオウは敢えて未来に目を向ける。

『退けぬ。今更退く訳にはいかぬ。
 拳士として、漢として。そして、兄として…』

「私もリュウガに合流するとしよう」
「ソウガ?」
「兄弟水入らずだ。
 存分に想いを拳に託してぶつけ合うが良い」
「…安易に死ぬなよ、ソウガ」
「ふっ。やはり気付いていたのか。
 私も又、長くは無いと云う事を」
「無論。誤魔化せるとでも思っていたのか?」
「いや…気付かれているとは思っていた。
 そして…」
「そして?」
「出来れば気付いて欲しいとも、願っていた」
「ソウガよ…」
「ラオウ、心置きなく闘ってくれ。
 私も生命の限り闘おう。
 我が強敵の為だけに」
「ソウガ、うぬの力。
 大いに役立てさせてもらったぞ。
 同じ修羅の血を継ぐ者として、強敵として
 俺が用意出来るのは戦場だけ。
 だからこそ、犬死だけは認めぬ」
「解っている。
 相応しい舞台を用意してくれた事、
 感謝しているよ」

ソウガは笑っていた。
もう二度と会えないと察していながらも、
それでもラオウも笑みを浮かべていた。

其処に、涙は存在しなかった。

* * * * * *

「行こうか、リュウガ」
「軍師ソウガ? どうして貴方が此処に?」
「拳王の聖戦に何人たりとも
 邪魔をさせる訳にはいかんのでな。
 南斗であろうと、野盗であろうとも関係無い。
 全て…蹴散らす!」
「了解した! 全軍、進撃っ!!」

リュウガの掛け声に大軍が動き出す。
その様子をラオウは独り、
拠点から見送っていた。

* * * * * *

「伝令! ラオウの軍が動き出しました!
 先鋒のヒューイ様の軍との衝突は
 避けられない模様!」
「シュレンの軍は回せるか?」
「伝令を走らせております!
 間もなく合流出来るかと」
「何としてでも食い止めるのだ。良いな!」
「承知!!」

南斗最後の将の居城に飛び交う声。
リハクは伝令に指示を飛ばしている。

「ユリア様?」

トウはユリアが
北斗七星に目を奪われている事に気付き、
恐る恐る声を掛けた。

「どうなさいましたか、ユリア様?」
「二つの巨星が…激突する」
「?!」
「一つはラオウでしょう…。
 もう一つの星、あれは……」

紅く輝く星。
そして蒼く煌めく星に重なる様に
流れ星が横切った。

「…トキ?」

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SITE UP・2017.05.22 ©森本 樹



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