Alioth・2

全ては、私の責任。
ユダの心変わりに気付かなかった。
サウザーの孤独な心が傷付いていくのを
見て見ぬ振りしていた。
ギリギリ迄 状況を見守ると言いながらも
責任から逃れ、放置していた。

それが、このザマである。

南斗六星は墜ちるのだろう。
本来の役目を忘れ、軌道を離れた流星達。
この石碑は、哀れな時代の生贄達の為の物。
其の者達の為に、敢えて私も成ろう。
生贄の一人と。
それで我が罪が消える訳ではないが…
このまま、生き恥を晒す訳にもいかない。

求めていたのだ。
誰よりも私自身が…死に場所を。

* * * * * *

それは余りにも壮絶な死に様だった。
目の前で石碑に押し潰される様子を
見ていたケンシロウだけでなく
遠く離れた場所から見守っていた二人にも
シュウの慟哭は届いていた。

狂った歯車を制御する事は叶わなかった。
そして南斗の星々は
次々とその輝きを失い、やがては墜ちた。
将星もその運命から免れる事は無いだろう。

「むぅ」

ラオウは何かの存在に気付き、
視線を聖帝十字陵から外した。

「あれは…南斗の旗?
 成程、噂通り挙兵したか。
 南斗最後の将よ…」
「……」

トキもラオウに促される様に
新たに現れた南斗の軍に視線を送る。
その中央に立つ鎧姿の将。
彼女も又、ラオウとトキを
見つめている様だった。

「サウザーに助力する気は無さそうだな。
 同じ南斗六星でありながら
 敢えて将星を見殺しにするか」
「……」

トキは何も答えない。
彼はふと、自分が嘗て
伝承者指名された時の事を思い返していた。

* * * * * *

第64代北斗神拳の継承者として指名されたトキは
先代でもある師リュウケンと共に
南斗聖拳一派の治める或る街を訪ねていた。
其処で彼は、南斗六星の未来を担う
先代の最後の将と面会を果たしている。

「その方がトキか」
「はい」
「畏まらずとも良い。
 ではリュウケン殿。
 彼が未来の将と夫婦となるのですな。
 北斗と南斗、表裏一体であるこの二派が一つに」
「左様」

継承者になると云う事は、
未来の妻も強制的に決められるものなのか。
ジャギの言う様に確かに息苦しい。
そんな本音を押し殺しながら
トキは黙って二人の話を聞いていた。

「では紹介しましょう。我が後継者を。
 ユリアを此処に」
「ユリア?!」

トキは驚いて椅子から立ち上がる。
まさか。しかし、確かに彼女も。
そんな思いが脳裏をグルグルと駆け巡る。
そして、奥の間から現れたのは
確かに自分の良く知る、あのユリアであった。

「ユリア。この方が貴女の将来の伴侶。
 さぁ、御挨拶なさい」
「……」

この時に見せたユリアの不安げな表情が
それ以降もトキの脳裏に色濃く残っている。

「師父…」
「どうした、トキ?」
「継承者をお受けするに当たって…
 一つだけお約束して頂きたいのです」
「何だ? 聞こう」
「この縁談の話…無かった事には出来ませぬか?」

驚いたのはリュウケンと将だった。
ユリアは縋る様な目でトキを見つめている。
彼女の気持ちは痛い程理解出来た。
愛しているからこそ、自分の者には出来ない。
そんな自分の本音を押し殺し
トキは両者の説得に成功した。

後にユリアはケンシロウと婚約し、
将来を誓い合った。
その時のユリアの幸せそうな笑顔は
自分では生み出せなかったもの。

「これで良かったんだ…」

そう、自分に言い聞かせた。
この件は他言無用とされ、
トキも厳守する様に念を押された。
後の将となるユリアの身を守る為の措置である。
だからこそ、トキは誰にも言えなかった。
兄であるラオウにも、将の正体は明かせなかった。

『いずれ判る事だ。
 運命の糸が繋がっているのであれば…
 誰が明かさずとも、いずれ正解に辿り着く。
 ケンシロウも、そして…ラオウも』

苦しい想いごと、彼はこの出来事を封印した。
自分の心の奥底へと。

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SITE UP・2017.05.03 ©森本 樹



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