Alioth・6

もう何度も見続けていると
これが只の夢ではない事に察しが付く。

特に銀色の髪の少年に
私は或る人物の面影を重ねる事が出来た。
見覚えが有るのだ。
恐らく、この少年はラオウである。
だが、そうすると…
彼に非常によく似た金色の髪の少年は
一体誰だと云うのだろうか。
とても二人は親しげで、
只の友人と云う感じには見えない。
私達に近しい親族が存在すると云った話も
聞いた事が無い。

私自身の視界も随分と低く、狭い事からも
ラオウに倣って幼い頃の体型なのだろうと察した。
そう考えれば、先日の夢で
あの女性が私を難無く抱き上げられたのも納得だ。

「不思議なものだ。
 もしかすると私は、幼少期のあの頃に
 戻りたいと願っているのかも知れないな。
 だからこんな夢ばかり見ているのだ…」

子供の頃に戻れたら、ラオウと闘わずに済む。
或る意味、【逃げ】だ。
そんな事が許される訳も無く
だからこそ、私は
夢で矛盾する思いを発散しているのだろう。
多分、そんな所だろうと考えている。

死期を察してからと云うものの
随分と女々しくなったものだ。
否、本質が元々女々しくて
その姿に戻りつつあると述べた方が
この場合は正しいのかも知れない。

「ラオウ……」

一体私は【その瞬間】を
どう迎える事になるのだろうか?

* * * * * *

「その後、ラオウの動きは?」

南斗の軍が駐在する拠点にて
ユリアはリハクからの報告を聞いていた。

「現時点に於きましては
 目立った動きは御座いません。
 引き続きヒューイ、シュレンに
 探らせております。
 フドウは自身の村にて待機しております」
「ジュウザの行方は、まだ…?」
「申し訳御座いません。
 何せ雲の如く掴み所の無い男でして…」
「……」

ユリアは頭上に輝く北斗七星に
そっと視線を向けた。

「兄、リュウガも今は拳王軍の
 将軍として名を馳せました…。
 私は…兄を討つ覚悟を
 持たなければなりません」
「将…」
「ユリア様……」

ユリアの最後の将としての覚悟に
リハクもトウも言葉を飲み込んだ。

「ケンシロウ様は今、トキ様と
 行動を共にされていると」
「ケンが、トキと…」
「はい。ラオウはいずれ、
 弟であるこの二人と対決する事になりましょう。
 彼等が暴凶星を落とす事が出来れば、或いは…」

リハクのこの発言にトウは表情を曇らせる。
ユリアはそんなトウを気遣いながらこう言った。

「未来は誰にも判らないものです。
 ラオウの心情も、又…同じ。
 お互いの宿命が呼び合えば、
 相対する事もあるでしょうが…」
「ユリア様…」
「我々はまだ動くべきではない。
 待つしかないのですね、トウ?」
「はい…。その様に感じます」
「ならば待ちましょう、この地で。
 私の運命も又、彼等の手の内に」

確かにこの先、どうなるかは誰にも判らない。
ケンシロウと無事に再会出来るのか、
その保証は何も無い。
それでも己の生命を賭けてくれたトキの為にも
此処で諦める訳にはいかなかった。

「待ち続ける事。見守り続ける事。
 それこそが我が星、慈母星の宿命。
 ならば待ち続けましょう。
 見守り続けましょう。
 見届けましょう、貴方々の戦いを…」

ユリアは手を組み、北斗七星に向かって祈った。
その星の下に戦う事になる拳士達に対して。
呪われし兄弟達に対して。
祈る事しか出来ない自分を悔やみながら。

* * * * * *

「う…っ」

夜中。またトキは魘されている。
ここ最近は連日の様に苦しんでいる。
悪夢に魘されない日は無いかの様だ。
せめて眠っている間だけでも
心穏やかに過ごして欲しいと願うが
現実はなかなか厳しく、思う様には進まない。

「トキ…」
「くぅ……っ」
「兄さん」
「…! ケンシロウ…?」
「又 酷く魘されていた」
「起こしてくれたのか。…ありがとう」
「いや…。どうする? 寝直すか?」
「あぁ、そうするとしよう」
「解った。お休み、トキ」
「あぁ…。お休み、ケンシロウ…」

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SITE UP・2017.05.12 ©森本 樹



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