Mizar・4

漸く戻って来る事が出来た。
久しぶりの再会に
トキはそっと微笑みかける。
亡き父、そして亡き母が
この墓の下で眠っている。

『ただいま。父さん、母さん。
 間も無くラオウも
 此処に姿を現すでしょう。
 此処は我等兄弟にとって【始まりの地】。
 そして【終焉の場】。
 見守ってください。
 私とラオウの闘いを…』

祈りを捧げ終わると
待っていたかの様にリンが口を開いた。

「もしや、これは御両親の…?」
「そう。此処は私の故郷。
 私は此処で生まれ育った」

勿論、嘘である。
だが、それで良いと思っていた。
今は此処が故郷で良い、と。

「そして、死ぬ時も又
 この地の中へ…。
 この墓は私の墓なのだ」

一回り小さな墓に積もった埃を払う。
両親が用意してくれた場所。
もう一度、一緒に居られる様にとの
養母の願いが込められている。

「それじゃ、その間のは……?」
「フッ…。その墓は
 私の実の兄が入るべき墓」

ケンシロウは眉を微動させた。

『やはり…。
 トキがこれ程迄に
 ラオウに対して執着を見せた理由は…』

自分も、もしかすると病でさえも
この二人の間には割って入っては
いけないのかも知れない。
此処迄力強く結ばれている絆。
それは。

「おーーーい!!」

バットの声が聞こえてきた。
急いで此方に走って来ている。

「む…向こうにでっけぇ馬の足跡が!!
 あ…ありゃ黒王号のに違いねぇ!!」
「ラオウが!!」

ケンシロウが鋭く反応する。

「…行こうか」

トキは静かにこう告げた。
これから死闘を迎えると云うのに
トキの表情は何処迄も穏やかだった。

* * * * * *

一方その頃。

ラオウは一人黙ったまま
ゆっくりと景色を眺めていた。

嘗て、此処で暮らしていた。
此処で養父と三人で修行を重ねていた。
養母の手作り弁当に舌鼓を打ち
談笑していた。

とても遠い、昔の記憶となった。

「景色でさえも
 あの頃の面影を失った。
 人の記憶等、尚更…」

果たしてトキは
自分の挑戦状を受け取ったであろうか?
そして、本当に
この地へ姿を現すのであろうか?

この状況が、まるで奇跡を祈り
願う人々の姿と重なっている様に感じ、
思わずラオウは苦笑した。

「フッ。俺らしくもない。
 まぁ無理も無かろう。
 修羅の血が騒いでおるのだ。
 全身の滾りが抑えられぬ」

渇望していたトキとの真剣勝負。
漸く叶う時が来た。

「…………
 背比べの跡か………」

ラオウは視線を或る一点に向け
そっと微笑を浮かべる。

「…俺の後ろを追い駆けてばかりだった
 あの子供が、今は逞しくなったものだ」

岩に刻まれた兄弟の成長の記録だけは
風化せず、昔のままの姿を維持していた。

「最早戻れない事など、解っておるわ」

温かな思い出に浸る事すら赦されない。
再度自分を厳しく戒める。

「トキを倒し、俺は今度こそ【天】を握る!
 情など不要! 唯、前進あるのみ!!」

ラオウは空を、北斗七星を睨みつけた。

「終わらせてくれるわ!
 北斗の呪われし宿命などっ!!」

黒王が何かに気付いた様だ。

「…来たか」

自然と笑みが零れていた。
待ち続けていた想い人の登場に
ラオウは全身の血が
湧き立つのを感じていた。

* * * * * *

「やはり此処に足が向いたか、トキ!」
「フ…。
 父と母が私達兄弟を
 引き合わせてくれたらしい」

挑戦状を出した者。
そして、その挑戦状を受け取った者。
二人が実の兄弟であると云う事。
最早、疑う余地は無かった。

『だからこそトキは譲らなかった。
 トキにとってラオウは特別な存在。
 そして、恐らくはラオウも…』

二人を見守るケンシロウも
その濃い血故の宿業を目の当たりにし、
漸く【入り込めない壁】を認識した。

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SITE UP・2017.06.03 ©森本 樹



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