Mizar・6

「私の中に流れるラオウと同じ血は
 私にこの拳を会得させた!」
「うぬは俺の剛の拳を!!」

其、即ち修羅の血也。
トキの中に流れる修羅の血は
今、完全に覚醒した。

「言った筈だ!
 貴方の全てを目指したとっ!!」

強烈なトキのアッパーカットを
既の所で避けるが
その拳圧で胸部を抉られた。
恐ろしい迄の破壊力である。
ラオウは思わず片膝を着いた。

「この拳は私の最期の闘い。
 即ち!!
 貴方との闘い迄は使わぬと
 誓っていたっ!!」

トキは改めて宣言する。
これが自身の最期の闘いだと。
だからこそ、戒めを解き放った。
唯一人、ラオウの為だけに。
ラオウは何も言い返せず
思わず息を飲む。

「天を見よっ!!
 見える筈だ! あの死兆星がっ!!」

トキに促され、
ラオウは頭上の空を見上げる。
今迄見た事の無い小さな光が
自身の目に飛び込んできた。

「な…何と!
 我が頭上に死兆星がっ?!」

ラオウの声に驚いたのは
ケンシロウ達も同様だった。

「そ…そんな!!
 二人に死兆星が…」
「トキの天賦の才が
 ラオウの死兆星を呼んだ!!
 神にすら
 この宿命の対決の勝敗は見えぬ!!」

ケンシロウは古より残る
北斗神拳の伝承を口にした。

「北斗1800年の歴史の中に
 生きる言い伝えがある。
 互角の拳を持つ強者
 相闘う時、その両者の頭上に
 死兆星輝く、と!!」

正に今、伝説が実現したのだ。
時代を揺るがす二人の強者の出現で。

「さぁ。運命の幕を閉じよう。
 …ラオウッ!!」

* * * * * *

これが、死兆星…。

我が目に映るは実にこれが初めての事。
成程。
レイが見た星はあの様に輝いておったのか。
しかし、まさかこの目で確認出来ようとは
思いもしなかった。
トキの一念が死兆星を出現させたとは
流石に恐れ入った。

トキよ。
それ程迄に、この兄の生命が欲しいか。
死地への道連れにこの俺を選ぶか。
それ程迄に、このラオウを求めるのか。
愛い奴よ。

しかし、トキよ。
我が弟よ。
お前は本当にこの兄を倒せるのか?
我が頭上に死兆星を落とす事は出来るのか?

今こそ、お前の本気を
お前の覚悟を
お前の全力を、見せてもらうぞ!!

* * * * * *

「万人の為に生きた漢、トキ!
 その漢が今初めて
 己の願望の為に闘う気になった!
 良かろうっ!!
 見事、この兄を超え
 この拳王の野望を
 砕いてみるが良いっ!!」
「せめて奥義で葬ろう!
 ラオウッ!!」

空気が激しく振動する。
二人の呼吸が共鳴を生み出す。

「大気が…震えてる……」
「北斗神拳奥義、闘勁呼法!
 勁は鋼! 圧縮された闘力!!」

バットの呟きにケンシロウが思わず答える。

『呼気と共に体内に全闘力を蓄え
 吐気と共に一気に拳に集約する
 剛拳の呼法!
 吐気と共に全能力、
 全闘力を賭けた闘いが始まる!!』

バットは食い入る様に見つめている。
殺気に耐えられなくなったのか
リンの体が大きく後ろに傾いた。
失神したのだ。

「リンっ!!」

バットは慌てて彼女の体を支える。

『無理もねぇや…。
 俺だってこの闘気に
 飲み込まれそうになってんだ。
 女の子のリンじゃ
 こんなの、耐えられねぇよ。
 今迄見て来たどの闘いとも違う。
 こんな凄ぇ闘い、見た事がねぇよ!!』

リンの体を確りと抱き締めながら
バットはケンシロウを見た。
彼も先程から黙って
二人の闘いに見入っている。

『ケン…。
 ケンにとっては血が繋がってなくても
 二人共、自分の兄貴なんだ。
 その二人の兄貴が闘っている…。
 ケンはどんな思いで
 この闘いを見てるんだろう…?』

闘気が衝突し、爆風となって吹き荒れる。
ケンシロウは吹き飛んだ瓦礫から
バットとリンを守るべく立ちはだかった。

「あたーっ!!」

瓦礫を拳で粉砕し、
少年少女の無事を確認すると
ケンシロウも又、何事も無かったかの様に
再び視線をラオウとトキに移した。

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SITE UP・2017.06.09 ©森本 樹



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