ROAD Of MADNESS
Alcaid・2

6日目。

体の動きは昨日迄と左程変化は無い。
大丈夫だ。
まだ、私は生きていられる。
心を強く持ち、生きていける。

「バット。患者達は?」
「あぁ。今日も大盛況だぜ。
 朝から行列が出来てる」
「そうか。じゃあ、始めるとしよう」
「解った! リン、頼むぜ!」
「えぇ、バット!」

今日も又、診療が始まる。
いつもと同じ様に。
だが、今の私には
これがこの上なく
楽しいひと時であった。

たとえ私が消えても…
私の思いは繋がっている。
こうして、人々の笑顔の中に。

それで良い。
それで充分だ。

その笑みを絶やす事無く
是非、未来に繋げていって欲しい。
人々の幸せに
少しでも尽力出来たとしたら
それだけで、
私が生きて来た事に意味を成す。

「今日はどうしましたか?」

私は笑顔で患者に声を掛ける。
さぁ、今日の私の真剣勝負が幕を開く。

* * * * * *

ケンシロウがいつも連れ歩く
あの二人の子供。
俺達兄弟の決闘に立ち会うとは
随分とトキに気に入られたものだ。

面倒見は昔から良かったが
だからと言って
人を信用しているかとなると
決してそうではない。
警戒心の高さで言えば
トキはかなり高い方だろう。

そんな男が連れて来た子供達。
もしかすると
自身の死に様を
見せる事になったかも
知れぬのに、である。

「いや…寧ろ
 敢えて見せようとしていたのか。
 己の生き様の集大成として」

導く者とされし漢。
その仕事はケンシロウで
終わったと思っていたが、
まだ続きが用意されていたらしい。

「あの少年少女を導くと申すか、トキよ。
 …ふっ。それも又、うぬらしい」

ふと物憂げなトキの横顔を思い出した。
星はまだ、墜ちてはいない。
まだ、我が弟は生きている。
生きて、病と戦い続けているのだろう。
この俺との約束を果たそうと…。

「拳王様! 失礼致します!!」

伝令の者の様だ。

「入れ」
「はっ!!」

火急の用なのだろう。
伝令係は流れる汗を拭いながら報告する。

「どうした?」
「はい。リュウガ様からの伝言であります。
 トキ様の居場所が分かったとの事です。
 直ぐにでもお迎えに参ると」
「……」
「拳王様?」
「…解った。下がれ」
「はっ!」

もう、そっとしておいてやりたかった。
トキは既に拳士ではない。
最早闘う必要の無い男だ。
これ以上、トキを
戦場に立たせたくは無かった。
しかし、もしもこのままで居れば。
其方の方が危険だと云うのであれば…?

「…下らん」

例え拳士ではなくなっても
トキは己の生き様も死に様も
自分で決める男。
最早俺の力など必要とはしていない。

俺はトキに対して「迷うな」と言った。
トキが迷わない為にも
俺は迷ってはならないのだ。

拳王として生き、闘うと決めた以上は。

* * * * * *

今日も無事、仕事を終えた。
夕餉の食卓を子供達を囲み
静かに過去を振り返る。
一言一言に思いを込めて。

「トキってさぁ」

バットはふと言葉を発する。

「本当に兄弟の事、
 大切に思ってたんだな」
「あぁ…。今でもな」
「何かさ、皮肉だよ」
「…バット」
「だってさ。ケンにしてもそうだけど
 大切で尊敬する兄貴と戦うなんてさ。
 幾らそれが決められた事だって言っても
 本当にそれ以外に方法が無かったのか
 俺でさえも考えちまうぜ」
「…そうだな。
 確かに、もっと他の方法を模索すれば
 此処迄血も流れなかったかも知れない」
「あ、いや俺は別に
 トキを責めてる訳じゃ…!」

慌てるバットに思わず笑みが零れた。
この子はいつもそうだ。
そうやって、共に居る者の
心を軽くしてくれる。
こんなに幼い子でも強さを秘めている。
未来の可能性。
その星に宿る輝きを、私は今一度実感した。

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SITE UP・2017.06.27 ©森本 樹



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