Fremde・1

温かな日差しが
瞼の向こう側から差し込んでくる。
恐る恐る目を開いてみると
其処は一面、真っ白な世界だった。

「…?」

混乱している頭を数回振ってみる。
どうも巧く動かせないと思ったら
頭が柔らかな布に沈み込んでいた。

「此処は…?」

落ち着いて来ると共にハッキリしてくる視界。
只、真っ白なだけではない。
色に関してはそれ程詳しくないが
この世界を包み込む色は
純白よりももっと温もりを感じる。
そして鼻腔を擽る花の香り。

「花?」

先程迄私の居た世界では
既に花も大半が枯れ果てていた。
生命が死に逝く世界。
正しく【世紀末】だった。
それなのに、此処には花が存在する。

「私は…死んだ、のか?」

そう考えると妙に納得がいった。
流石に死の灰に耐えられる程
私の体は頑丈に仕上がってはいない。

「そうか…。死んだ、か…」

私はゆっくりと体を起こした。
自分の身を纏う見慣れない衣装に驚き
改めて周囲を見渡す。
まるで何処かの宮殿の様な広さを持ちながら
調度品は質素な作りで上品さを醸し出している。
この部屋、いや…この屋敷の主は
余程優れた美的感覚の持ち主なのだろう。

「…これ、は……?」

姿見で改めて自分の姿を確認して
私は思わず息を飲んだ。
嘗ての赤墨色の髪は銀色と化し
まるで別人の様にさえ映っている。

「これが、私…なのか?」

流石に夢でも見ているんじゃないかと思えた。
こんな訳、ある筈が無い。
では…あの【私】は何処へ行ったというのだ?
ケンシロウとユリアをシェルターへ逃がし
一人で死の灰を待っていたあの私は…?

「!」

誰かが近付いて来る。
気配が此方に向かっている。
殺意は無い。
この屋敷の主かも知れない。
動揺を悟られない様にしなければ。

私は姿見を後にし
先程迄臥せていたベッドに腰を下ろした。

* * * * * *

「兄さん?」

第一声にいきなり面食らった。
主だと思い込んでいた人物は
私よりもどう見ても
年下の女性であるだけでなく
彼女は私の事を【兄】と呼んだのだ。

私を兄と呼ぶ人間はそれなりには居たが
今となってはジャギと
ケンシロウしか残ってはいない。
第一私には妹が…。

「…サヤカ?」

確かに、居た。
唯一人、私には妹が存在する。
まだ赤ん坊だった頃に別れた
末娘のサヤカだ。
あれから長い年月が過ぎた。
歳は確かケンシロウと同じ位だ。
成長すればこんな感じに成ろうか。

「どうしたの? トキ兄さん」

サヤカから声を掛けられる迄
私はどうやら無言で
ボンヤリと彼女を見つめていたらしい。

[0]  web拍手 by FC2   [2]

SITE UP・2017.07.27 ©森本 樹



【MONAT SaND】目次
H