Fremde・2

「どうしたの? トキ兄さん」

サヤカは私の顔を覗き込んできた。
大きく目を見開いている。
母と同じ金の髪と蒼い瞳。
彼女ソックリに、美しく育ったのだな。
私は思わず安堵していた。
赤ん坊の頃に別れたきりの妹の
立派な成長をこの目に出来たのだから。

「…私はどうして、此処に?」
「覚えてないの?
 広間で急に意識を失って…」
「広間で…?」
「その後、気を取り直して…
 自分の部屋で休むって。
 それから2時間位過ぎたから
 心配して様子を見に来たの」
「…そうだったのか」

私はそっと右手で彼女の髪を撫でた。
笑顔を浮かべ、
彼女の心配事を取り除く様にと。

「もう大丈夫だよ。ありがとう、サヤカ」
「うん…。体は大丈夫そうね。
 何処にぶつけたって訳でも無かったし。
 でも…」
「ん?」
「意識の方が心配だわ…」

彼女の言わんとしている事は理解出来る。
彼女の知る【私】と今の【私】が
合致していない、と云う訳だ。

「確かに、記憶が混濁しているみたいだ」

私は敢えて彼女にそう言った。
今の私ではこの世界で巧く立ち回れないだろう。
誰か信頼出来る味方を作っておかなければ
何か遭った時に対応する事が出来ない。
少なくとも目の前に居るサヤカは
私の事を心配してくれている上に
私の身に起こった異常についても
何かの察しはついているだろうから
話をするにも早いだろう。

『それに…』

サヤカが此処に居ると云う事は、
恐らく此処は我が故郷。
だとすればあの人も此処に居る筈。
我等兄弟の長兄。

『カイオウ、兄さん…』

彼は私を見て何を思うだろうか?
この世界は解らない事だらけだ。
以前の私の記憶も、
何処迄 当てになるか解らない。

『願わくば、カイオウ兄さんとは
 闘いたくないものだ』

「兄さん?」
「あ、あぁ…。少し疲れたかな?」
「そりゃそうでしょ。
 もしかして、部屋に戻ってから今迄
 ずっと座っていたの?
 少し横になって。
 後で温かい物を用意するわ」
「済まない、サヤカ」
「変な兄さん。遠慮なんて要らないのに」

やはり【変】なのだろうか。
私がそう考え込みそうになる手前で
サヤカはふと笑みを見せた。

「いつもそうなんだから。
 兄弟に遠慮は不要だって
 兄さんが言ってる事なのに」

いつも。
そうか。この世界の【私】は
今の私と左程違いはなさそうだ。
これなら何とかなるかも知れない。
いつまでこのままで居られるかは判らないが
この状態である限りは
彼女の知る【トキ】でありたい。

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SITE UP・2017.07.31 ©森本 樹



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