I Bruder

『僕、宇宙戦士になる!』

進に言われたこの一言が
今でも脳裏を支配する。

敵討ちをする為だと言う。
そんな汚れ仕事は兄の役目だと
何度言った所で聞きもしない。

お前には立派な夢が有った筈だ。
その夢を自ら手放してまで
叶えなければ成らないものでは無い。

ふと、古い記憶が蘇った。

自身が宇宙戦士になると決めた時の
何とも言えない母の悲しげな瞳を。
あの瞳の意味を、当時の俺は理解出来なかった。
息子の出世を願ってはくれないのか。
そんな気さえした。

実際、入学してからと云うものの
自身が描いていた理想像とは余りにも掛け離れ
正直、地球防衛軍の士気の低さに霹靂した。
この分だと、いずれガミラスに完全降伏するだろう。
否、それを許す訳には行かぬ。

だらけた姿勢は生徒にも伝染している。
卒業しても、改善の余地は見出せず
実際の所、何処かで俺は見限っていた。
コレが地球の限界なんだと。

しかし、見限った所で辞められはせぬ。
死ぬまで地球の為に戦う。
それが、宇宙戦士なのだ。

事務処理をしながら
今の自分が少しも仕事モードで無い事に
我ながら失笑してしまう。
このような状況だから駄目なのだ。
俺も…また、腐った連中と同属か。

「古代」
「はい、何でしょうか?」
「随分と顔色が優れんな。
 休暇は足りているのか?」
「御心配は無用です、沖田さん」
「弟の件もあるだろう。
 この程度の事務作業なら誰でも出来る。
 無理をせず、弟の傍に居てやれば良い」
「……」
「どうした、古代?」
「…沖田さん。
 私は、どうすれば良いんでしょうか」
「ん? 何か遭ったのか?」

元来、高名な物理学者であった
我が上官の沖田 十三は
公私共に尊敬出来る男である。
これまでも何度か
相談に乗ってもらった事は有るが
流石に今回の件に関しては
二の足を踏む思いだ。

「どうした、古代?
 お前が其処まで悩むとは珍しい」
「珍しい…でしょうか?」
「あぁ、即断即決のお前らしくない」
「はぁ……」
「弟の事が気に掛かるか?」
「…えぇ、まぁ……」
「随分と歯切れの悪い。
 弟が宇宙戦士を志願したのか?」
「!!」
「やはり図星か…」
「沖田さん…私は……」

沖田さんは小さく一つ、溜息を吐くと
俺の肩を力強く叩いた。

「古代、覚えておくんだ。
 漢と云うものは…
 例え何があろうとも、避けられぬ道がある。
 それを見つけた以上、進むしかないのだ」
「……」
「年齢など関係無いさ。
 お前の弟は、見つけたのだよ。
 己の【生きる道】をな」

俺は何も言い返せなかった。
進の生きる道。
それが…宇宙戦士に成る事、なのだろうか。

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SITE UP・2010.06.06 ©Space Matrix

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