島が部屋に帰って来たのは丸一日経ってから。
然も、土方教官に支えられながら
フラフラの状態で戻って来たのである。
歩いてはいるが、意識はかなり低下しており
自力で立つ事も叶わない状態だった。
顔は醜く腫れ上がらせ、息は荒く
着衣もボロボロで、所々肌が露出している。
「古代、先ずは島を横にさせるんだ。
微温湯を用意してくれ。それとタオル」
「は…はい!」
「大声を出すな。傷に触る」
「は……はい」
教官に指示されながら
俺はテキパキと必要な物を揃えていく。
その合間にも聞こえてくる、
妙に艶かしい島の苦しげな声。
呻き声、ではない。
アレではまるで【喘ぎ声】だ。
まさか…島は……?
「古代、少しの間退室していろ」
「え? でも此処は俺の…」
「早くしろ。教官命令だ」
「…はい」
土方教官は普段絶対に見せないであろう
凄みを増した目で俺を睨み付ける。
意地を張って部屋に残ろうとしても
実力行使で追い出されるのが関の山。
此処は素直に従う事にした。
「古代」
部屋を出る直前、教官は俺を呼んだ。
それは…なんとも哀しげな声に聞こえた。
「今日の事は…島に言うな。
絶対に、彼の耳に入れるな」
「……はい」
この言葉に、俺は全てを悟った。
島が受けた仕打ち。
どんな目に遭わされたのかと云う事を。
同時に蘇るのは…あの記憶。
信じてた人の豹変した表情。
狂気に満ちた目。
そして……。
「うわぁーーーーーーーーーーっ!!」
俺は滅茶苦茶に叫びながら
寮を飛び出した。
叫ぶだけじゃ耐え切れそうに無かった。
この怒りを、悲しみを
何処かで発散させなければ
気が狂いそうだった。
俺と同じ思いだけはして欲しくなかった。
島だけは、あんな目に遭わせたくなかった。
あんな情けなくて、恐ろしい思いは
俺だけで充分だと思っていたのに…っ!!
俺は島を守れなかった。
そして今も、俺には何も出来ない。
「許せない……」
走って、走って。
息が切れる迄走って。
漸く口から漏れた言葉。
「俺は…絶対に、許さない……。
島を…島を傷付けた連中…
必ず、見つけ出してやる……」
このままでは終われない。
否、終わらせてはいけない。
俺は静かに【復讐】を誓っていた。
例え、相手が今見えなくても
俺は必ず…この復讐を遂げてみせる、と。
* * * * * *
「加藤寮長」
加藤 三郎が廊下を徘徊していると
背後から誰かが声を掛けてくる。
「何だ、山本か。
何か遭ったのか?」
「1年の島」
「…あぁ、彼か」
「何処まで調べが付いてるんだ?」
「難しい所で止まっている」
「……」
2年生の山本 明は、寮長である3年生の加藤同様
眉間に皺を寄せたまま苦悩している。
「やはり…彼奴等か?」
「可能性は高い」
「それでは…」
「話の続きは、部屋に戻ってからの方が良い。
廊下じゃ誰が聞き耳を立てているか判らんからな」
「それもそうか…」
「お前が相部屋で良かったぞ、山本」
「それは光栄です、寮長」
山本が若干表情を緩めたのを見て
加藤も少しだけだが笑みを浮かべていた。 |