File.1-10

お互いに顔を見つめあったまま
何も語らない。
語る事が出来ない。

このままでは埒が明かない。
俺は、思い切って声を掛けてみた。

「し…、島……」

声が震えて上擦っている。
勇気を出さなければ。
此処で勇気を振り絞らなければ
俺はずっと後悔する事になる。

「島…。俺はお前に…
 お前に、謝らないと…」
「古代…」
「お前を…追い詰める気は無かったんだ。
 俺はただ、お前と話がしたかった。
 お前にだけは…話しておきたかった。
 そして、お前に…解って欲しかった…」
「……」

「俺は寂しかった…。
 家族を失って、初めて孤独を感じた。
 誰かに縋りたくて、
 でも…誰も居ないと思い込んで…。
 そんな時、艦長が俺に気付いてくれた」
「……」

「俺は本当に嬉しかったんだ。
 家族を失い、故郷を失っても…
 俺にはヤマトが存在する。
 それを実感出来て、嬉しかった…」
「古代…」

「要は甘えてたんだ。
 だから…お前の変化にも気付かなかった。
 気付くべきだったのに、俺は…莫迦だ…」
「古代……」

「俺はお前を苦しめていただけだった…。
 お前がどれだけ俺を支えていてくれたか。
 なのに、俺はお前を傷付け続け……」
「古代、それは…」

謝罪、それしか出来ないと思っていた。
どんなに罵られても、伝えなければいけなかった。
たとえそれが、只の言い訳でしかなかったとしても。

「済まない、島…」

真っ直ぐに島の顔さえ見れない。
情けないとしか思えない。

不意に俺の顔が、自分の意志とは関係無く持ち上がる。
顎に当たるのは…島の大きな手だ。
真っ直ぐ俺を見つめてくるその目の輝きは
昔から良く知る、アイツの物だった。

「もう良い。もう良いんだ、古代」
「島…」
「俺も大人気無かったよな。
 お前がどんなに孤独で
 寂しい思いを抱いていたかを知ろうともせず、
 急に湧き出した嫉妬や苛立ちをお前にぶつけた。
 その挙句、俺を救おうとしてくれていたお前に対して
 あんな仕打ちをしてしまったのだから…」
「島……」
「俺はな、古代」

島は一息吐いてから言葉を続けた。

「俺は…お前を艦長に取られた様で哀しかった。
 俺はお前とずっと一緒に居たのに、
 なのに…お前だけが遠くに行ってしまう気がして…。
 誰かがお前を遠くに連れ去りそうな気がして…
 ずっと、怖かったんだ」
「島…」
「お前を俺だけの者にしたかった。
 何処にも、誰にもやりたくなかったんだ…」

島はシニカルな笑みを浮かべている。
自嘲気味に笑う。
何とも哀しげな瞳で。

「何て浅ましい独占欲。
 お前に嫌われても、軽蔑されても仕方が無い。
 そう思うと…な……」

だから、自身をこの薄暗い密室に閉じ込め
己を戒めていたと言うのか。

俺はこんなにも愛されていたんだ。
親友としても、そして…一人の人間としても。
こんなにもコイツは俺の事を想っていてくれた。

それが、嬉しかった。
ただただ、嬉しかった。

「古代。俺は…」

島が何かを言い掛けていたが、
俺は思わずその声を遮っていた。

「好きだ、島!」
「こ…古代?」
「俺はお前が好きだ。大好きだ!
 だから…だから…」
「古代…」
「俺の傍に居てくれ。
 俺の一番傍で、俺の力に成ってくれ!!」
「……」

思い切って告白したのは良いが、
その後どうして良いのか全く解らない。
背中に変な汗が流れてくる。

「…島?」

先程から黙ったままの島に
俺は一抹の不安を感じ取った。
呆れ返られたのだろうか。

「し……っ!」

島の答えは呆気無いものだった。
だが、言葉よりも確かな返事。
温かな唇の感触が俺に伝えてくれる。

もう、大丈夫だ…と。

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SITE UP・2010.02.10 ©森本 樹

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