File.1-14

漸く思った所まで調整を終え、
俺は丁寧に格納庫の点検を済ませてからその場を去った。
流石に久々の調整だからか、体がオイル塗れだ。
このまま第一艦橋に向かうのは体裁が悪い。
一度部屋に戻り、熱いシャワーで体を洗って綺麗にしてから…。

廊下を歩いていると、再度反対側から来る藪と出会った。

『折角、良い気分だったのに…』

ふと浮かんだ上位職に有るまじき発言に
俺は頭の中で自分を激しく叱咤した。

「上がり、ですか?」
「いや…まだだが」
「そうですか…」

藪から声を掛けられ、俺は多少なりとも驚いた。
まぁ…コレだけ汚れた様子であれば
今日の仕事は終了、と捉えられるかも知れんが。

「古代さん…」
「ん? 何だ?」
「随分と…島さんと仲が良いんですね」
「…どう云う意味だ?」
「いえ…。よくお互いの部屋を訪問してるなぁ〜ってね」

藪はそう言うと、癪に障る笑いを浮かべた。
コイツ…何が言いたいんだ?

「これからの航海については、班長同士
 お互いに思う事が有るからな。
 長い付き合いだからこその、
 皆の居る所では正直言い難い発言も出てくる。
 だから部屋に戻ってから、
 お互いの意見を思う存分ぶつけ合ってるんだ」
「にしても毎日ですか…」
「何か可笑しいか?」
「いえ…感心しますよ」

藪はそう言って鼻で笑っている。
何だか、凄く悔しい。無性に…悔しい。
俺はともかく、島まで馬鹿にされた様な気がして。
だが…ここで俺が短気を起こせばコイツの思う壺かも知れない。
そうなれば、困るのは俺じゃない。…島だ。

「第一艦橋の判断でヤマトは動くんですからね。
 積極的なディスカッション、これからも期待してますよ」
「……あぁ」

言いたい事を言い終えたのか、
藪はそのまま機関室へと戻って行く。

含みの有る、棘だらけの言葉によく耐えられたものだ。
以前の俺ならば間違い無く殴っていただろう。
耐えられたのは俺が大人になったからか?

いや、違う。

島が居てくれるから、アイツに迷惑を掛けたく無いから。
今度は俺が…アイツを守りたいから。
唯…その一念だったんだ。

「早く風呂に入ろう」

誰に言う訳でもなく吐いて出た独り言。
そうだ、シャワーで洗い流してしまおう。
この薄気味悪い感情も。

* * * * * *

俺が古代 進と初めて会ったのは…どの位昔か。
最初は…兄、古代 守の面会にやって来た時。
奴はまだ本当に子供で、とにかく…可愛らしい子だった。
母親の陰に隠れながら寄宿所の受付で立っていたな。

「真田、俺の家族だ」

守は自信満々で、誇らしげに家族を紹介してくれた。
見ているだけで解る様な温かな家庭。
少し、羨ましいと思っていた。

「進」

母親の陰に隠れていた少年は、一瞬の隙を突いて
今度は守の後ろに隠れてしまう。
人見知りをするのだろうか。

「進。兄さんの友人の真田さんだ。
 ほら、自己紹介しなさい」
「……」

自慢じゃないがこの人相だ。
子供にとっては恐ろしく映った事だろう。
俺は膝を曲げて視線を少年に合わせ、
自分にしては目一杯の笑顔を浮かべて見せた。

「初めまして進君。
 僕が、真田 志郎だ」
「オジさん…兄さんのお友達?」
「お…オジ、さん…?」
「こら、進ッ!!」

流石に守が大声を張り上げる。
無理も無い。俺はまだ当時17歳なんだから。
幾ら何でも初対面で『オジさん』は無いだろう。

だが、何故か俺は嬉しかった。
どんな呼ばれ方でも、彼は俺にきちんと答えてくれたのだから。
親友である守の家族、と云う点に於いても
男兄弟の居ない俺にとって、彼は漸く出来た念願の『弟』だった。

「ははは、オジさんは酷いなぁ〜。
 そう、兄さんの友達だよ。
 宜しくな、進君」
「よろしくね、真田さん」
「進君、君も兄さんと同じ様に宇宙戦士を目指すのかい?」

俺の質問に対し、一瞬両親の…寧ろ母親の姿を見た進は
その後、寂しそうな表情を浮かべて答えた。

「僕は…戦士になんてならないよ」
「そうか…。どうしてか、聞いても良いかい?」
「戦いなんて…大嫌いだから……」
「そうか……」

好きで戦う奴なんぞ、限られているだろうが
この時の進の言葉は…それ以降、俺の心に深く刻み込まれた。

あの時、真っ向から戦いを否定した進。
時代を経て…まさかこのヤマトで
共にガミラスと戦う運命に遭遇するとは…。

俺は…この運命の悪戯を、運命を用意した無慈悲な神を…
今でも、心底恨んでいる。

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SITE UP・2010.02.14 ©森本 樹

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