| File.1-15 |
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火星での寮生活で難儀したのは長期休暇… 所謂『夏休み』って奴だった。 俺は何の問題も無かったのだが、 身寄りの無い古代にとっては地獄の様な期間。 唯一人、寮に留まろうとしていたみたいだが 生憎…寮は機器チェックを済ませる準備に入っており この期間は全室閉鎖する事が決定していた。 「そんな…。じゃあ、俺…手伝いますから!」 「しかしだね、古代君…」 寮長との激しい口論を見掛けた俺は 思わず2人の間に割って入っていた。 「島…?」 「あぁ、島。古代の奴がな…」 「その件なんですが、寮長」 以前から計画立てていた事を話す時が来た。 俺は思い切って口を開く。 「夏休み、古代を家に招きたいのですが」 「…え?」 古代は何の事か解らず、大きな目を更に見開いて驚いている。 「寮の規律として、何か問題は有るでしょうか?」 「いや…問題無い。大丈夫だ」 「でしたら…」 「でも、それじゃ島やご家族に迷惑が…」 「古代、実はな。私からも島に頼もうかと思っていたんだよ。 まさか島本人から申し出が有るとは思わなかったが」 「でも…でも、寮でも世話になってるのに…」 「気にするなよ、古代。 俺の家族もお前の事を知っているし、 一緒に帰って来ると話したら弟が喜んでいてな」 「でも……」 「一緒に帰ってくれよ、古代。頼む…」 「島……」 不意に握った古代の手は震えていた。 ずっと俯いたままの彼の表情を見る事は叶わない。 余計なお世話だっただろうか? もしかして、迷惑だったのだろうか? だが…古代1人を置いてはいけない。 「古代…その……」 「…有難う」 古代は小さく、それだけを伝えてきた。 そして、俺の手に落ちた一筋の水滴。 古代は…泣き顔を見られたくなくて ずっと俯いていたらしい。 拒まれなくて良かった。 俺は古代に心から感謝し、彼の手を優しく握り返した。 意地を張って交信を拒んだが、 恥などかなぐり捨てて…俺も話すべきだっただろうか。 島と一緒に交信室に入り、 おじさんやおばさん、次郎と 会話を交わしておけば良かったんだろうか。 俺は…一時期厄介になった身だ。 その時の恩は忘れてなどいないし、今でも感謝してる。 だが…それと『甘え』は違う。決して違う。 お父さんやお母さんの事を忘れた事は一度も無いし 忘れないからこそ、怒りと悲しみが今も俺を支配する。 だけど…お母さんは、今の俺を喜んではくれないだろう。 だれよりも『争い』が嫌いだったお母さん。 兄さんが宇宙戦士訓練学校に進学した時も 1人…悲しんで涙を流していた。 「進。覚えておきなさい。 暴力はやがて自分に返ってくるものです。 その覚悟を持って、貴方は拳を握れますか? 出来ないのであれば、拳は収めなさい」 お母さんの言葉は今も尚、俺を迷わせる。 揺るぎ無い自信や覚悟などは無い。 だからこそ、『復讐』の単語を聞くだけで 俺は自分を見失ってしまうのだから…。 「多くは望まないわ。 貴方が笑顔で毎日過ごしてくれる事が きっとお母さんの為になるのだから」 おばさんはそう言って微笑んでくれた。 そして、俺を抱き締めてくれた。 きっと…同じ意味なんだろう。 だって二人は…『母親』なんだから。 |