File.1-7

次第に大きくなる違和感に
俺はとうとう根負けした。
口が自然と開き、耳元に問い掛ける。

「古代…」
「ん…あ、ぐぅ……」
「お前…もしかして……」
「う……」
「処女、か?」
「う…あ……?」

一瞬の沈黙。
それが、長い長い時間の様に感じた。

古代は静かに何度か首を縦に振る。
目からは涙が溢れており、
相当苦しかったであろう様子が滲み出ていた。

「…そ、そう…だったんだ……」

自身の苛立ちが【勘違い】であった事を
俺はこの時に漸く悟った。
同時に迫り来る、言い知れぬ罪悪感に
心は押し潰されてしまいそうだった。

「…でも」
「…何だ?」
「俺は…男、だから…
 【処女】では…ないん、だが……」
「……」

既にそれ所ではない俺にとって
言葉の相違等、正直どうでも良かったが。

古代は気付いたのだろうか。
そのまま優しく俺を抱き締めると
何度も髪を撫でている。
癖の有る俺の髪。
数度、古代の指に絡まる感触がした。

「優しく、してくれないか?」

古代からの思わぬ言葉に、
俺は一瞬息を飲んだ。
その意味を理解するのに、暫しの時間を有した。

「島…頼む……。
 このままじゃお互い、辛いだけだから…」
「古代…」
「解るよ。だって……」

そう言い掛け、古代は はにかむ様にして笑った。

「俺も、男…だから、さ……」

この言葉の後、正直俺がどうなったのか
古代がどうなったのか…
何も覚えてはいない。
頭が真っ白になっていき、
そのまま意識は溶けてしまったから。

* * * * * *

縋る様な思いで口から洩れ出た言葉に
島は静かに頷くと、俺の心に答えてくれた。

島がどれ程心細かったのか、
俺は知ろうともしなかった。
この痛みも苦しみも、
俺が当然負うべき罰なのだと解っていても
身体と言うのは正直なもので
見えぬ【痛み】に恐怖すら抱いていた。
判らないと云う事は、それだけで恐怖なのだ。

今は手に取る様に判る。
島の心が、理解出来る。
だから不思議と、怖くはなかった。

いつか艦長が仰った様に
俺達は【素直であれ】ば良かったのだ。
ただ、お互いに正直であれば
この様に傷付け合わずに済んだのだ。
それを怠ったのは…双方の責任であり
やはり、俺達はお互いに
まだ信頼し切っていなかった。
そして、それではやはり駄目だったのだ。

俺には島が必要だし、島も又 同様。
この旅を乗り越える為にも、
そして、これから生きて行く為にも…。

島の体温を感じながら、
俺はいつの間にか睡魔に襲われて
意識を手放していた…。

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SITE UP・2010.01.30 ©森本 樹

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