File.2-5

俺がシーツの海に身を沈めても
島は机の上で何かを必死に書き留めている。
何時もそれが不思議だった。
一体何を書き残しているんだろう。

作業中の島の表情は真剣そのもので
声を掛ける事さえ憚れる位だった。

戦士とは多少違うものの
その威圧感は只者ではないと感じる。
ただ、何かを書き留めているだけの筈が。

「大介…。まだ、眠らないのか?」
「ん。あぁ、灯が眩しかったか?」
「いや…そうじゃない」
「?」
「余り根を詰めるなよ。
 お前ってさ、息抜きが下手だから…」
「俺より下手な奴に心配されたくは無い」
「な…何だと!
 人が折角心配してやってると言うのに!!」

島の表情は少し見え難かったが
心成しか頬が緩んでいる様に見えた。
彼奴の事だから
ムキになった俺を見て、
ほくそ笑んでいるのだろう。

そう云う所は本当に
子供っぽいと云うか、性格が悪い。
冷静沈着な航海班長とは名ばかりの
悪戯小僧だとしか思えない。

「大介! お前って奴は本当に…」
「あぁ、解った。解った。
 俺が悪かったよ、進。
 だからもう許せ、な?」
「…悪いだなんて思ってもいないクセに」

言い争って俺が勝てた例は無いのに。
それでも挑んでしまうのは、
相手が島だからなんだろうか。
それも、俺の中では不思議な事である。

プライベートでこう云う言い争いになる時は
その内容が実に下らない痴話喧嘩程度で
俺は時々自分が恥ずかしくなる位だ。

「…なぁ、大介」
「ん?」
「一体…何を書いているんだ?
 毎晩毎晩、必ずじゃないか」
「航海日誌さ」
「…航海日誌?」
「あぁ。今日一日、どんな事が起こったか。
 またはどんな形でそれ等を回避したのか。
 後で誰が読み返しても解る様に、
 詳細に書き留めているのさ」
「…何の為に?」
「勿論、地球防衛本部の為でも有るが…
 一番は自分自身の成長の為に、かな」
「自分自身の…成長……」
「あぁ、そうだ」
「……」

また、だ。
敵わないと、痛感させられる。
何時だって島は俺の一歩前に居る。
さも当たり前の様に。

俺は何時だって島に甘えている。
守られている。
それを当然の権利と主張し、
結局は自分で何もしていないも同じ。

何時になれば俺は変われる?
島の為に、生きていける?

「またそんな顔をする」
「…大介」
「その表情を浮かべれば全て許されると
 変な免罪符に使うんじゃない。
 他の乗組員にまで舐められるぞ」
「俺は…別に外じゃ……」
「態度は表情に変わるものだ。
 油断はするな」

余り普段は見せない、険しい島の眼差し。
俺は思わず息を飲んだ。

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SITE UP・2010.5.20 ©森本 樹

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