File.3-16

大介の両親は俺達を
とても暖かく迎え入れてくれた。
軍部からの通達は届いている筈。
だが、2人共何も言わない。
この人達はいつもそうだから。

「進君、コロッケも一杯作ったわよ」
「うわぁ〜! 俺、食いたかったんだ!!」
「ははは。お腹も減っただろう。
 さぁ、部屋着に着替えてゆっくりしなさい」

俺が無邪気に甘えている間、
大介は荷物を片付けながらも視線を張り巡らす。
自宅に帰って迄警戒する事など無い筈だが。

「父さん、次郎は?」
「いや、まだだが…」
「遅くないか? 俺、捜してくる」
「…あぁ、頼むよ」
「じゃあ、俺も…!」

大介と2人で玄関に向かった所、
丁度その方向から音がした。
次郎だ。帰って来たんだ。

「次郎、ただい……」

俺は思わず息を飲んだ。
次郎は顔を赤く腫らした状態で
靴を脱いでいたからだ。
喧嘩…だろうか。
それにしても、酷い有様だ。

「あ…お兄ちゃん達。
 お帰りなさい!」

健気にも次郎はその状態で
笑顔を作り、俺達を迎えてくれる。
涙が溢れてきそうだった。

「次郎、誰にやられた?」
「大介兄ちゃん…」
「相手は複数だろう。誰にやられた?」
「だ、大丈夫だよ。僕がやっつけちゃったから」
「……」
「大介?」
「大介兄ちゃん…」

大介はそのまま何も言わず、
外へと飛び出してしまった。

「…次郎、本当にその怪我は……」
「…御免ね、進兄ちゃん。
 僕…一生懸命戦ったんだけど……」
「次郎……」

* * * * * *

喧嘩の真相は、報復から帰って来た大介に聞いた。
家族がヤマト乗組員だと云うだけで行われた
理不尽な仕打ち、虐めがその理由だと言う。

「…守るんじゃなかった、こんな惑星」
「大介……」

誰も居なくなった食卓で日本酒を呷り、
大介は苦々しく言葉を吐き捨てる。

「ならば…貴様等の手で守れば良い。
 俺はもう、何もしたくない」
「それは…駄目だよ、大介。
 地球には何の罪も無い。
 護らなきゃ、俺達の惑星を…」
「…それが、お前の望みか…進?」
「……そうだ」
「……そうか」

再度酒を呷り、大介はそのまま黙ってしまう。
色んな思いが交差しているのが
手に取る様に伝わってくる。

本当にこれから地獄を味わうのは…
俺ではなく、大介なのだと云う事を。
思い知らされた様な気がした。
彼はこれから、どうなってしまうんだろうか。

「…寝るか」
「…眠りたく無いな」
「ん?」
「だって…」
「……」
「時間が、惜しい…から…」
「…俺もだ」
「大介……」
「時間が足りない…。
 たったの72時間では…足りなさ過ぎる」
「あぁ…。全然足りない」

今日だけで、何度キスを交わしただろうか。
日付を跨いで交わしたキスは
やはり、苦い日本酒の味がした。

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SITE UP・2010.9.18 ©森本 樹

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