| File.3-3 |
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廊下で擦れ違う乗組員達の顔は 皆、何処か晴れ晴れとしていた。 地球に帰れる。 それが、とても嬉しい事なのだろうが… 俺にはその喜びが理解出来なかった。 寧ろ、忌々しいとさえ感じる。 島は一度だってそんな表情を浮かべない。 俺の気持ちに配慮して、なのか。 いや…そんな奴ではない。 コイツも航海班長としての自分を自覚している。 家族の事が気に掛かるだろうに…。 「どうした、古代?」 「ん…別に、何でも無い」 「お前のその口振りだとな。 何でも無い、ってのは嘘だ」 「嘘と迄は言わんが…そうかもな」 「学生時代から変わってない」 このまま第一艦橋に帰るのも気が進まず、 俺の歩は次第にノロノロとしたものになる。 「俺の部屋で、少し寛ぐか? 精々30分が限度だろうが」 「…良いのか?」 「美味いレモンティを淹れてやるよ」 フッと見せた島の笑顔がとても優しげで 此処が廊下じゃなければ 俺は思わずコイツを抱きしめてしまっていただろう。 それ位、魅力的な表情だった。 何処かで覚悟を決めたのだろう。 コイツは…そう云う奴だから。 「最近の乗組員の気の緩みは 尋常じゃないですよね…」 珈琲を口にしながら 南部は思い切り顔を顰めている。 「まぁ…地球に帰れるのだから 浮き足立っても仕方ないと思いますよ」 「生きて地球の地を踏めるとは限らないぞ、太田」 「えっ?」 「まさかとは思っていたが… 太田も相原も、無事に故郷に戻れるとでも?」 「……」 「地球は完全降伏したんだぞ。 軍所属の者の未来など…考えられん」 「南部さん……」 「それが、『戦争』って奴なんだよ」 軍に設備投資していた実家の事も気に掛かるが 南部はそれを表には出さなかった。 口こそ挟まなかったが、 南部の言いたい事を雪は痛感していた。 もう両親とは会えないかも知れない。 あの通信が、最期になるかも知れない。 「そう悲観するな、南部」 「しかし…徳川さん……」 「ワシはな、アイ子をもう一度抱き締めてやるよ」 「……」 「諦めるのも大切じゃがな、 お前さん達はまだまだ若いんじゃ。 喰らい付くのも…時には必要じゃぞ」 「…喰らい、付く……」 「ワシはな…どうも、 このままでは終わらん気がするんじゃ」 「徳川さん……」 「年寄りの心配性って奴かな」 徳川はそう云うと豪快に笑って見せる。 それに釣られて太田も笑い出した。 「まぁ、全ては地球に戻ってからですよね!」 「そう云う事じゃ。 何だ、太田。 お前さん、意外と度胸が有るじゃないか」 「徳川さんと班長に鍛えられちゃいました」 「あぁ、島も年齢の割には老けとるからな」 「もう…失礼ですよ、徳川さん!」 徳川と太田の駆け引きに 雪が、相原が、そしていつの間にか南部までも 思わず笑いが伝染していた。 |