File.3-6

ワープ航法実施は延期。
喧嘩騒ぎを起こした俺と藪はお咎め無し。
沖田艦長の計らいである。

この件に際し、
島と真田さんがどれだけ働いてくれたか
俺は窺い知る事も出来ない。
あの日から、俺は此処を一歩も出ていない。
部屋の中で、島が来てくれる迄
俺は静かに待ち続けるだけ。

今は…島にだけ逢いたい。
島以外には…会いたくない。

今日も、数時間後には来てくれるだろうか。
島が帰って来てくれるのを心待ちにしながら
俺は再び眠りに就いていた。

* * * * * *

「まだ顔の腫れ、引かないか」

黙々と自身の愛機を磨いている山本に対して
心配そうに加藤が声を掛ける。

「チーフのパンチ食らってしまったからな。
 そんな簡単には引かないよ」
「お前の色男っぷりが半減しちまうな」
「何だ? 加藤って色男が好きなのか。
 じゃあ…今の俺じゃ役不足だな」
「ば〜か! お前なら何でも良いんだよ!」
「!!」

暗い格納庫。
然も2人きりの空間で、
加藤は想いを篭めて山本に口付けを送った。
深く、強く。

「場所弁えろ、加藤…」
「地球に戻ったら、もう…一緒には居られない。
 そう思うと…つい、な」
「加藤……」
「済まなかった、山本…」
「待て、加藤…」
「ん?」
「俺…部屋に戻る。続きは、その…」
「山本……」

地球に戻っても未来は見えない。
それは、艦載機パイロットである2人も
常々感じ取っていた。

だから確かめ合いたい。
互いの絆を、信じたい。
生きている内に。

「じゃあ、部屋に戻るか…明」
「三郎……」
「今だけは、恋人同士に戻っても良いだろう?」
「……あぁ」

部下の手前、遠慮し合っていたが
そんな窮屈な関係も間も無く終わる。
加藤と山本は微笑み合うと
静かに格納庫を後にした。

* * * * * *

「傷の具合はどうじゃ、藪?」

その頃、医務室では徳川が
1人で藪を見舞っていた。

「…それ程、大怪我では有りませんよ。
 大丈夫です……」
「なら、良かった。
 今度のワープがこの航海で最後になる。
 共に、成功させような」
「徳川さん……」
「地球に、戻ろう」
「……はい」

笑顔を見せる徳川に対し、
藪は己の中に芽生えた炎を隠すのに必死だった。

激しい憎悪。
そう、あの2人に対して。

『俺は絶対に許さない。
 あの2人を。
 古代と…島の2人を』

受けた傷が憎悪に呼応する様に疼く。
この恨みをどう返せばいいものか。
藪の脳裏に、
今はその事しか存在してはいなかった。

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SITE UP・2010.7.6 ©森本 樹

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