File.3-8

部屋のロックが解除され、
慣れた様子で誰かが入ってくる。
島だ。

「只今、進」

再度、扉を施錠してから
島はゆっくりと此方に向かって来る。

「どうだ、調子は?
 加藤と山本が心配していたぞ?」
「……」
「ん? どうしたんだ、進?」
「お前は…あの2人が気になるのか?」
「?」
「こんな所に居るよりも…
 第一艦橋や、機関室なんかに居た方が
 お前の為に成るんだろうな……」

下らない事を言っている。
只の我侭じゃないか。
俺は寂しいという感情を持て余し、
苛立ちを島にぶつけている。
そうやって少しは気が晴れるだろうと…。

いや、気が晴れる事は無いだろう。
益々自分が嫌に成るだけだ。

「…悪態が吐ける位なら、
 大分回復はしてるんだろうよ」

島は苦笑を浮かべながら
そのままポットで湯を沸かし始めた。
多分、紅茶を淹れてくれるんだろう。

「その本…」
「本?」
「あぁ、物理学の…」
「徳川さんから借りたんだよ」
「徳川さんから?」
「そう。ヤマトに乗り込んで直ぐ位かな?
 元々専門ではない分野だから
 読破するのに時間を要したが…」
「……」
「御蔭で、俺は俺なりに
 『沖田 十三』なる人物像を見出す事が出来た」
「どう云う意味だ?」
「書物、文章には…人となりが表れる。
 文字を通じて、その人の内面が見えてくる」
「……」
「内容は多少難しいんだがな。
 読んでみる価値は有ると思うぞ?」
「お前……」
「ん?」
「態と、なのか?
 その本を此処に置いていたのは…」
「寝てるだけじゃ暇だろうかと思って」
「……」

俺は恥ずかしかった。
島の行動に隠されたアイツの思い遣り。
アイツなりの優しさが
今の俺には全く理解出来ていなかった。

恥ずかしい。
こんなにも想われているのに。
俺は何時からこんなツマラナイ男に…。

「進……」

何時の間に傍に居たのだろう。
島はそっと俺の顎を掴むと
そのまま唇を近付けてくる。

「大介……」
「進…」

受け容れて良いのだろうか…?
俺は…コイツの相棒として
果たして資格を有しているのだろうか?

「下らない事を考えるな」

俺の心の奥底さえも
見透かしているかの様な鋭い声。
射抜かれる。
その意志の強い瞳に。

「俺が癒してやる」
「大介……」
「全てを俺に委ねろ、進。
 迷うな。俺が居るんだから」
「…だい、すけ……」
「俺が導いてやるから」

コイツの前なら…
もう、恥も外聞もかなぐり捨てて良いんだ。
そう思うと、急に心が軽くなった。

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SITE UP・2010.7.8 ©森本 樹

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