| File.5-2 |
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「お帰り、大介兄ちゃん!」 元気の良い次郎に声に 島は優しく微笑みを返す。 「ただいま、次郎」 「そろそろご飯だよ。 早く手を洗って、着替えて来てよ」 「あぁ、解ったよ」 そのまま玄関から台所へと向かう弟の後姿に ふと【彼】の後姿を重ねてしまう。 何度こんな虚しい事を繰り返してきただろう。 そしてこれからも、きっと繰り返されるのだろう。 何も変わらないのであれば。 「俺は……」 何処かで戦乱を期待しているのだろうか。 古代が生命を賭けて迄救い、漸く手に入れた平和を 破壊したいと何処かで願っているのだろうか。 「違う。俺は…」 あの日よりずっと繰り返されてきた自問自答。 答えを導き出せる筈も無く、 苦しみだけが引き伸ばされる。 「俺は…一体何を願っているんだ?」 そして、思い知らされる。 如何に古代に甘え、依存してきたかを。 この苦しみも、悲しみも… 古代が居てくれたからこそ 今迄乗り越えられて来たのだと云う事を。 「俺は…無力だ……」 そうやって呟くだけしか出来ない身の上を恨み、 島は下唇を強く噛み締めた。 激しく体力を消耗している訳ではないから 食事も思った様に捗らない。 元々が小食の島は、最近 又痩せた様で 母親も気が気でない様子だった。 戦時中は臨時ニュースばかりだった モニターの向こう側からも 明るい笑い声が聞こえてくる。 時代が変わったんだと、思う瞬間。 「平和って言うけどさ〜」 ふと、次郎が呟く。 米粒を頬に付けたままのあどけない表情で。 「平和にしてくれたのは 進兄ちゃんなんだよね。 どうしてその事を誰も知らないのかな?」 思わず箸が止まった。 そうなのだ。 誰にも知らされない事実。 一部の関係者のみ知り得る事実。 そして…隠遁された真実。 【古代 進】と云う一人の地球人の犠牲の上で 初めて成り立っている今の【平和】な世界。 「偉い人にとっては黙っていたい話だからさ」 「どうして? 戦争を止めたんだよ。 進兄ちゃんの方が偉いじゃないか」 「…次郎」 「……」 「お前が解ってくれれば、それで良いんだ。 きっと進だって、その方が良いと喜んでくれるさ」 「大介兄ちゃん…」 そう、その方がきっと 古代 進と云う男は喜んでくれるだろう。 そう云う男なのだ。 英雄になんかなりたくないと 笑顔で答えてくれる筈だから。 「俺達が忘れなければ良いんだ。 この平和を築き上げたのは 古代 進と云う名前の 一人の男なんだって事をな」 |