File.5-3

「大介、少し良いか?」

夕食後、ボンヤリと茶を啜っていたら
父親から声を掛けられた。
何事だろうと首を傾げたが
彼はそのまま自席に座った。

「一杯やるか」
「俺、明日も仕事が…」
「どうせ大した仕事じゃなかろう。
 母さん、酒を出してくれ」

食器を片付けていた母親は
彼の一言に微笑むと、
奥から冷えた日本酒と
コップを出してきた。

「食後の晩酌だ。付き合え」
「そう云う事なら…」
「お前はその堅物な所がいかんな。
 全く、誰に似たのやら…」
「父さんに似たんじゃないのかな」
「誰がそんな事言ってた?」
「母さん。後は親戚の小母さん」
「やれやれ…」

他愛も無い会話が続くと
思っていた島だったが
直後、父親が切り出した言葉に
思わず表情を強張らせた。

「一度【自由】を与えられると
 人間って奴は怠惰になる。
 次の【争い】では死滅しかねんな」
「…父さん?」
「進君の思いとは真逆になってしまった。
 彼はこんな地球を望んでなど居なかった筈だ」
「…何が遭った?」
「僻地勤務のお前よりは情報が入って来てるよ。
 今でも南部重工業の存在と技術力は
 ガミラス帝国にも高く評価されているからな」
「再び…戦争が起こるって云う事なのか?」
「恐らくはな」
「…莫迦な」

吐き出す様に呟き、日本酒を一気に煽った。
味覚等、既に消えていた。

「一時凌ぎだったらしいと専らの評判だ。
 今回の休戦は…」
「じゃあ、進の犠牲は…?」
「……」
「そんな……」
「この様な事、次郎に話せる筈も無かろう。
 あの子が進君をどれだけ慕っているか」
「父さん……」

父親は静かに島のコップに日本酒を注ぎ足す。
自身は煙草に火を点け、静かに煙を燻らせた。

「開戦後、南部がどう関与するかは判らんがな。
 全く、莫迦な絵を描いたものだよ」
「もし…」
「ん?」
「もし、戦争になったら…。
 父さん達はどうするんだ?」
「…さぁな、皆目見当もつかんよ」
「……」
「私はお前の方が心配だよ、大介」
「え…?」
「今の職場に異動となったのも
 お前がヤマトの航海長だったからだ。
 当然、上層部はお前の動きをマークしてるだろう。
 又 戦争を企む様な奴等だ。
 何をしでかすか判ったもんじゃない」
「俺は……」
「私達の事は気にするな、大介」
「父さん…?」
「その時が来れば、お前はお前の信じる道を進め」
「……」
「これは私の【遺言】だと思って聞け」
「父さん!」
「私達はお前の【思い】を信じ、それに従う。
 だから迷うな、大介。
 お前は、お前の信じる道を進むんだ」
「……解ったよ、父さん」

父親はフッと笑みを浮かべ、空になった瓶を持ち上げた。
薄いガラス越しに泣き出しそうな表情の息子が見える。

「男二人で呑むとあっという間だな。
 おぉ〜い、母さん! もう一本出してくれ!
 それと母さんも一緒に飲もう!
 今日は祝杯を挙げるぞ!!」
「はいはい、元気だこと。
 じゃあ私も参加させてもらいますよ」

いつもと変わらない笑顔と明るい声。
両親の【芯の強さ】を
島は改めて教えられた様な気がした。

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SITE UP・2013.01.28 ©森本 樹

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