File.6-1

随分と長い間、眠っていた様な気がする。
薄らと開いた瞼の隙間から差し込む光が眩しくて
また目を閉じようとしてたら
誰かに呼び止められる。

暫くその繰り返し。
聴き覚えのある少女の声。

「…いさま。兄様…。進兄様……」

名前は確かに俺のもの…だが
生憎、俺には兄しか居ない筈だ。
況してや妹なんて……。
妹……?

* * * * * *

「古代の容体は幾分か安定した様です」

タランからの報告にデスラーは無言で頷いた。

「刺客の処分ですが」
「あの少年か」
「はい。如何なさいますか?」
「古代に一任しよう」
「古代に…?」
「あの男が丸腰で撃たれたとは俄かに信じがたい。
 それに…」

デスラーはゆっくりと立ち上がり
背後の窓から広大な宇宙空間を見つめた。

「己の生命を奪おうとした者に対して
 古代がどう接するのかを見てみたい」
「成程」
「許すのか、それとも許さないのか。
 興味深いとは思わんか、タラン?」
「御意」

自分が感じた【風】を
本当に古代が吹き起こすのだろうか。
その瞬間を是非この目で見てみたい。

デスラーは独り、そう思っていた。

* * * * * *

霞む視界の先に一人の少女が立っている。
目にいっぱい涙を溜め、
必死に泣くまいと耐えているのが
手に取る様に解る。

「アイ…シァ…?」
「そうです、兄様。アイシァです。
 兄様の妹のアイシァです!」
「じゃあ、此処…は…」

古代の脳裏に蘇る記憶。
見知らぬ少年の襲撃を受けた事。
彼は『兄の復讐』だと言った。
この戦いで犠牲になった兵士の遺族なのだろう。

「俺…と、同じ……」

だから反撃出来なかった。
なすがままに撃たれ、
志半ばで倒れる事になったとしても。
彼の思いはそのまま、
嘗て自分がデスラーに向けた殺意と同じなのだ。
繰り返されるだけ。
それが苦しかった。辛かった。

「救いたい…。あの、子を…」
「あの子? 兄様を撃った、
 あの少年を…ですか?」
「あぁ…。まだ、無事…なのか?」
「……」
「アイシァ…」
「身柄は、総統閣下が…」
「デスラーが…。なら、まだ…大丈夫、だな」

古代はそう呟き、微笑んだ。
アイシァには俄かに理解出来ない笑みだった。

「どうして、笑えるのです?
 兄様、どうして…」
「俺は…デスラーを、信じている。
 信じられる…。
 彼奴程、ガミラスの民を…
 思う人間は、居ないから。
 だから、殺さない。
 俺には…解るんだ……」

殺意が信頼へと変わっている。
そんな自分の心境に驚いているのは
他ならぬ古代本人であった事を
アイシァは知る由も無かった。

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SITE UP・2016.12.10 ©森本 樹

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