Data.1-10

業務の引継ぎ報告や、その他諸事情により
この部屋を訪れた事は何度も有る。
だが、個人的な事で入室する事は無かった。

艦長室。
進兄さんの、個室。

思っていた通り、部屋には少しアルコール臭。
呑んでいたのではなく、
栓を開けたまま放置していた為だろう。
脱ぎ散らかした服や乱雑に置かれた書籍。

この方が落ち着くのだろうか。
俺なら却って気になるんだが…等と思いながら
視線はふと、小さな机に向かっていた。

古代一家の家族写真。
少し埃を被ってはいるが、大切に置かれている。
しかし気になったのは…やはり『表情』だった。
進兄さんも、そして雪さんも
何処か浮かない表情で写っている。
幸せな筈の家族写真で見せた二人の悲しげな瞳。

「……」

兄さんは、寂しいんだ。
そして、そんな兄さんを見守るしか出来ない雪さんも
きっと…もっと、寂しかったのだろう。
幸せな筈なのに…。
誰よりも、幸せに成って良い筈だったのに……。

『今が…不幸だと言うのなら……』

ずっと、静かに見守っていこうと誓っていた。
兄さんが誰を愛しているのか位、知っている。
俺の想いが成就されない事も。
だが、今のまま兄さんが不幸になって行くと云うのなら。
どんな手段を用いても、
もしも俺がそれを食い止められるのであれば…。

俺は…【禁忌】を犯しても、良い。

* * * * * *

「話って、何だ?」

切り出したのは古代からだった。
急かせる訳でもなく、落ち着いた声。
上司と部下、では無く兄弟として。
そんな雰囲気を思わせた。

「お前が態々『折り入って』だなんて…
 余程込み入った話なんだろう?」
「……」
「どうした、次郎?
 ちゃんと話してくれないと解らないだろう」
「……進兄さん」
「ん?」
「貴方にとって俺は…
 どんな存在に成れるんですか?」
「……?」

古代は流石に驚いたらしい。
口に手を当てたまま、ジッと次郎を見つめるだけだ。

「貴方にとって…【島】は、大介兄さんだけ。
 解ってます、そんな事…」
「次郎……?」
「だけど…俺だってずっと、貴方を…」
「……」
「貴方を…愛してるんだ……っ!」

直後、古代が何か言おうとしたのだが
発言は次郎からの口付けによって塞がれた。
力強く自分を抱き締めてくる感触。
言葉だけじゃない。
その気持ちも、強く強く体に訴えかけてくる。

全身の血が逆流を起こしているかの様に、熱い。
長きに渡って忘れていた。
思い出さない様にすらしていた、
激しく魂を揺さぶられる衝動。

『俺は…次郎を……』

古代は自身の気持ちを認識出来ていた。
だからなのか。
口付けを受けながら、自分の腕をそっと
次郎の背中に回していた。

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SITE UP・2010.3.15 ©森本 樹


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