Data.1-9

古代が第一艦橋に居る間、
其処の空気は張り詰めた様に緊張を隠せない。
一瞬の油断も許さない様な重い雰囲気。
副官、大村が殉職してから
尚一層、その傾向が強まった。

若いクルー達にとっては
何よりもこの圧迫感が余計な疲労を生んでいる。
古代自身にその様な自覚が有る筈も無く、
勿論、彼等を追い詰める気など微塵も無いのだが。

纏っているオーラが違い過ぎた。
悲しむべき原因は其処にこそ存在する。
古代と彼等とでは、埋められない程の差が有った。
死地を何度も潜り抜けてきた【勇者】の貫禄が
周囲を圧倒していただけの事なのだ。

「艦長」
「……」

漸く『捕まえた』とばかりに迫ってくる次郎に
流石の古代も悪いと思ったのだろうか。
咄嗟に帽子のツバを下げて、視線を逸らす。

「…『また』、呑み過ぎたんですか?
 先程の醜態は」
「醜態って……」
「美雪ちゃんから聞きましたよ。
 最近…深酒が続いてるんですか?」
「…そんなに呑んで無いよ。
 今は航海中だ、流石に控えてる」
「まぁ…確かに今はアルコールの匂いはしませんが」
「…次郎」

咎める様に古代が口を尖らせる。
確かに小声での遣り取りだが
この様な内容、他のクルーには聞かせられない。
艦長の威厳にも関わってくる。

「皆、心配してるんですよ」
「それは…解っている」
「解っておられないから忠告してるんです」
「次郎……」
「貴方がそんな調子では…
 誰も貴方に手を差し出す事すら出来ない。
 何時までたった独りで頑張るつもりなんですか?」

言い返せなかった。
次郎は古代が必死に隠し続ける【核心】を
躊躇する事無く攻めてくる。
其処を攻められれば、如何に古代と言えども
反論する事すら出来なくなる。

こんな事は…嘗ての親友、
彼の兄でも在る大介以来の事である。

「折り入って…話が有るんです」

突然切り出された次郎の発言に
古代は暫し言葉を失い、
黙って次郎を見つめ返していた。

「大切な話が。二人だけで」
「…そうか」
「今からでも…宜しいですか?」
「急ぎか…?」
「出来れば……」
「そうか…」

次郎は何かを伝えたがっている。
今後の航海にも大きく影響してくる事なのだろう。
古代は暫し思案していたが、
彼の左肩をポンと叩き、少しだけ微笑んだ。

「今から艦長室へ来い。
 其処でお前の話を聞こう。
 どうせ、副長からの進言なんだろう?」
「……有難う御座います」

古代の表情とは相反して
次郎は何故か浮かない様子だった。

[8]  web拍手 by FC2   [10]



SITE UP・2010.3.10 ©森本 樹


目次