| Data.1-13 |
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結婚式前日。 2人きりの静かな時間。 雪の口から漏れた、思わぬ一言。 「貴方は…笑わなくなった」 持っていたティーカップを 思わず落としそうになる。 それ位、俺にとっては 思い掛けない言葉だった。 「雪…?」 「本当よ。 何時からか、笑わなくなったわ。 笑顔を浮かべていても それはまるで氷の様に冷たくて 体温を一切感じさせないもの…」 「そんな事は…ないだろ…」 否定しなければと 心の何処かで焦っていた。 無駄な足掻き。 雪は見抜いていたのだ。 俺の心の空白を。 埋められない闇を。 そして…。 「私じゃ…埋められないって解ってる」 「…雪?」 「貴方が失ったものを全て 私一人で埋められる事は無いって… 解ってはいるの。 でも…でも、ね……」 それでも彼女は 確かに『諦めない』と言った。 静かだが、ハッキリとした口調で。 「雪……」 「共に手を携えて… 幸せになりましょうね。 島君の分も……」 「……」 「それが、生き残った者の義務よ」 「…そう、だね……」 俺は多分、その【義務】から逃げたのだ。 余りにも重過ぎたから。 正面から向かい合うには 余りにも強大な壁に思えたから。 雪は共に戦うと誓ってくれたのに 彼女を何処かで信じられなかった。 大介の様に、 俺を置いて行ってしまうと。 どうしてそんな身勝手な勘違いをしたのか。 そして結局俺は雪の手を振り解いて 一人、宇宙へと逃げ去ってしまったのだ。 俺はこの時点で大介を裏切っている。 明確な裏切り行為だろう。 アイツだって雪の事を想っていたんだ。 その愛する女の不幸など 心優しいアイツが許す筈もない。 大介との【約束】を守りたいと願っていた。 守りたいと思っていた筈なのに その重圧感が逆に俺を雁字搦めに縛り上げ、 気が付けばアイツの願いとは正反対の方向へ 運命は急激に転がり始めていた。 『お前は酷い奴だな…』 大介? そうだ、この声だ。 美雪が生まれて、雪が忙しくなって、 丁度…この頃からだ。 俺を責める、氷の様に冷めた声。 『なぁ、古代。 お前はさぞ満足だったろう。 俺から雪を奪い、とっとと出世して』 「大介…?」 『お前は俺の欲しいものを根こそぎ 俺の目の前で奪って行った。 さぞかし、満足だろう?』 「違う。違うんだ、俺は…」 『言い訳か。見苦しいな』 「大介…?」 『軽蔑するよ、古代』 「……」 『俺は、お前を…許さない』 これが俺の受けるべき【罰】なのか? 俺の苦悶は、此処から始まったんだ…。 |