Data.1-14

『お父さんなんて嫌い!
 大っ嫌い!!』
『進さん…貴方は……』

何時の間にか目の前には
幼い美雪を抱いた雪の姿が。
これも又、幻影なのだろうと
人事の様に感じている。

どうしてこんな幻を見てしまうのか。
自分で考えようともせず、
ただただ彼女等の罵倒を受けるのみ。
言いたい様に言わせておけば
その内に静寂が訪れる。

我慢すれば良い。
単純に、そう思っていた。

『逃げられると思うなよ、古代』
「大介…。俺は否定などしない。
 確かに、俺は全てから逃げ出した。
 それは…怖かったからだ」

古代は素直に胸の内を明かした。
恐らく、目の前に居る島 大介に
何を言っても通用しないだろう。
ならば、素直になるしかないと思ったのだ。

「俺は怖かった。
 14歳のあの日、全てを失った日。
 あの時の絶望感を味わうのが
 死ぬ事よりも恐ろしく感じていたから…」
『だから手放すのか』
「大介……」
『お前は昔からそうだったな。
 確信を突かれると直ぐに逃げ出す。
 そんなお前を、
 周囲はいつも手助けしていた。
 逃げる為の手伝いをな』
「……」
『随分と逃げるのが巧くなったよな。
 全く…感心するよ……』

大介が薄い笑みを浮かべる。
生前見せた事の無い不気味な表情。
こんな顔も出来たのか、と
古代はボンヤリと見つめていた。

「大介…」
『言ったろ、古代。
 俺はお前を許さない、とな』
「…許して欲しいとは、思ってない。
 憎んでくれて構わないよ、大介。
 それでお前の気が済むなら……」
『古代……』
「憎んでくれて良い。
 俺に出来る事はそれ位だから…」
『……』
「お前には何も出来なかった…。
 何も、してやれなかったから……」
『…傲慢』
「…かもな。そうかも知れん」

古代は目を瞑り、下を向いたまま。
目の前に立っている大介とは
顔を見合わせる事も無い。
直視出来ないのだ。

『お前が変わらない以上、
 この世界も…俺も、変わらない』
「…大介?」
『お前が求めない以上、
 この世界はお前を求めようとはしないだろう』
「どう云う…意味、なんだ?」
『自分で考えるんだな。
 それがこの世界で【生きる】と云う事』

大介の表情は変わらない。
ただ、その声色が
少し穏やかに変化していた。

「大介……?」
『考えろ。
 お前は何の為にこの世界で生きるのか。
 何をしなければならないのか、
 それを…忘れるんじゃない……』
「大介? 大介っ?!」

大介の体が眩い光に包まれていく。
その光が静まると、
古代は再び一人きりとなった。
宇宙空間に似た、暗い世界に。

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SITE UP・2010.4.1 ©森本 樹


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