Data.1-16

此処は戦場。
そして、自分達は軍人。
いつか【死】が二人を分かつかも知れない。
どんなに、共に生きていく事を望んでも。

古代はそれを嫌と言う程痛感していた。
最たるものが、大介との別れだったのだ。
あの時の、胸を引き裂かれる様な痛みだけは
未だに彼を捕らえて離そうとしない。

愛する者を奪われる恐怖。
まるで星の瞬きも無い暗黒空間に
放り出されたかの様な
絶対的な孤独感。
唯一人取り残される苦痛、悲しみ、怒り。
ヤマトに初乗船してからの凡そ20年間、
古代がこれらの悪夢から救われた時間は
極僅かだと言っても良い。

『もう…嫌だ……』

何度も生きる事を放棄しようとした。
何度も、己の命を捨てようとした。
気楽な貨物船の船長職に就きながら
危険を顧みず戦渦に飛び込んだのも
何処かで死地を求めていたからなのかも知れない。

所詮、自分は【宇宙戦士】なのだ。

その事実を思い知らされ、
古代は更に苦しんだ。
安息の時間は、どんなに望んでも
彼の下には訪れなかった。

『大介…。お前の下へ逝きたい…。
 連れて行ってくれ、大介…』

縋る様に手を伸ばしていた。
そんな彼の手を漸く掴んでくれた人物。
力強く引き寄せ、「生きろ」と伝えてくれた人物。
それは…。

『次郎……』

大介の遺志を継いだ訳でも在るまい。
だが、次郎は自らの意思で宇宙戦士と成り
今こうして、ヤマトの一員として存在している。
他ならぬ、古代の為に。

『俺にはまだ…お前が居てくれる。
 お前がこうして、俺の傍に…俺の一番傍に…』

まるで大介の様に、一番辛い時に傍に居る。
さもそれが「当然だ」と言わんばかりに。
あんなに幼かった少年は今、
こんなにも逞しく頼もしく成長してくれていた。

『なぁ…大介…』

心の中で生き続ける最愛の存在へ
古代はそっと語り掛ける。

『俺は…まだ、戦えるんだよな?
 志半ばで去ったお前の分も…
 俺はお前の家族を、
 次郎を…守りたいんだ…』

幻の大介は、昔のままの表情で
静かに優しく古代を見つめている。
そして。

『お前に任せた筈だぞ、進。
 信じる道を進め、その名の如く…』

やっと、その声が聴けた。
一人では聴けなかった大介からのメッセージ。
次郎と触れ合う事で、
漸く古代の耳にハッキリと届いたのだった。

* * * * * *

この瞬間でさえ、自分はまだ大介を求める。
そんな自分につくづく嫌気が刺した。
諦め切れず、忘れられず。
浅はかで、未練がましくて、厭味の様な執着心。
どうしてこんな愚かな人間に迄
堕ちてしまったのだろう。

「進…」

耳元に囁かれる甘い声。
そして、優しい口付け。

「無理に…忘れようとしなくて、良いから」
「…次郎?」
「俺だって…無理だから、さ。
 その…大介兄さんの事、忘れられないから…」
「…次郎、俺は……」
「解ってる。進は今でも…兄さんを愛してる」
「次郎……」
「愛して、愛し抜いて…
 こんなに身も心もボロボロになって…
 それでもまだ、愛してくれてる……」
「……」

そうじゃない。
違うのだ。
自分は縋っているだけなのだ。

だが…古代の言葉は、
咽喉から先には出てこなかった。
そんな勇気すら、彼には無い。

「有難う…進」

次郎は優しく微笑んでいる。
瞳には確かに寂しさの色が滲んでいたが。

「有難う…。
 こんなにも大介兄さんを愛してくれて…。
 弟として、…礼を言わせて欲しい。
 本当に……」
「止めてくれ、次郎…。
 俺は…俺は、只……」
「良いんだよ、言わなくても」

反論さえも口付けで封じられる。
やはり、甘えてしまう。
次郎の優しさと、強さに。

全てを曝け出そう。
どんなに惨めな姿も、包み隠さず明かそう。
次郎だけは…そんな自分を見ても
愛想を吐かして去って行きはしない筈だから。
次郎だけは…理解してくれる筈だから。

大介を愛しているのは事実。
今も尚、忘れられないのも事実。
だが…こうして次郎を求め、
愛しているのも…又、事実なのだ。

『現実から目を背けた所で…
 俺には行く宛て等、もう…無いんだ』

ならば、突き進むしかない。

嘗て、イスカンダルに向けて旅立ったあの時の様に。
未来など無い絶望の中、
微かな光を求めて戦い続けたあの日々の様に。

生きると云う事は…【航海】なのだ。

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SITE UP・2010.4.10 ©森本 樹


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