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古代の去った艦長室。 決して広くは無いその部屋で 次郎は静かに振り返っていた。 何度か、「これで良いのか」と自問自答してみた。 だが…詰まる所、結論は同じ。 古代を独りきりには出来なかった。 唯一人で苦しみ抜く古代を 見て見ぬ振りなど出来なかった。 「俺の想いに嘘偽りは無い…。 本気で、愛してる。 あの人の為なら、この生命さえ惜しくは無い」 だが、この言葉は決して古代の前では吐くまい。 彼は何度も「もう、独りにしないでくれ」と訴えていた。 兄、大介と同様…彼を置いて逝く訳にはいかないのだ。 もしも自分が彼の下を去ってしまったら… 今度こそ古代は、自らの【生命】を見限ってしまうだろう。 「それだけは…させない」 彼を悲しみの淵から救い出せるのであれば。 壮絶な迄の愛情。 それこそが、次郎の唯一の武器でも有った。 どんな強敵からも古代を守る為に。 「愛するって事は綺麗事じゃない…。 そうだったよね、大介兄さん」 まだ幼い自分に対し、唯一度だけ大介が語った言葉。 静かに、深い声で。 『愛するってのはな… 見掛け程、綺麗なもんじゃない。 時には刃物の様に鋭く、 心の奥底を抉ってしまうんだ…』 あれは、何時の話だったろう。 白色彗星の強襲後、だっただろうか。 自分の知らない場所で、知らない世界で。 大介も、進も、ずっと戦い…傷付いてきた。 「苦しむのも愛なら… その苦しみから救えるのも…愛だ。 俺は…【愛】を信じるよ、大介兄さん…」 自分の気持ちに気付き、受け容れてくれた進。 幼い頃、自分を可愛がってくれた大切なもう一人の兄。 あの頃と寸分変わらぬ優しさと、逞しさ。 そして…あの頃には気付く事も無かった脆さと悲しみ。 初めて出会ってから23年。 漸く知る事が出来た本当の【古代 進】に対し 次郎は更なる想いの高まりを感じていた。 「愛してる…。 ただ、それだけなのに…。 不思議だな。 こんなにも満たされる。 初めてだよ…こんな満足感…」 余韻に浸っている訳にもいかない。 自分は恋人でも在るが、 それ以上に副長として彼をサポートする立場に在る。 「大村さんはとても立派な方だったらしいし、 俺も負けてはいられないからな…」 副艦長、航海班最高責任者。 次郎の立場は初乗艦にも拘らず 最初からとても熾烈なものである。 しかし、それは全て古代が自分を認めた結果。 応えなければ、誰よりも古代の顔に泥を塗ってしまう。 出来て当然、それが今の次郎の状況なのだ。 「応えて見せるさ。 俺は【島 大介の弟】なんだから」 自信に溢れた笑顔を浮かべ、 制服を着直した次郎は 力強い歩で第一艦橋へと向かった。 |