Data.2-1

グローブが鮮血に染まる。
流れを止める事も出来ず、見守るのみ。
段々と血の気が引いていく顔。
相反する荒い呼吸音。

「…島? 島……」

何度も呼び掛けるが、それに答える力など
本当はもう…残ってなどいなかった筈だ。

「……古、代」
「何だ? 何が言いたい、島?」
「……雪と、幸せに……」
「島……」
「これで…俺の仕事も…終わる、な…。
 後は…雪に、お前のお守…任せ……」
「……」
「…疲れ…た……」

思ってもみなかった言葉に、古代の声は失われる。
死に際の悪態、とも言うべきか。
だからこそ、逆に本音とも取れる言葉。

その真意を聞く事はもう、叶わない。
今際の言葉だけに、真相は闇の中だ。

「迷惑でしかなかったのか…?
 お前にとって、俺は……?」

死別と云う事実だけでも重かった。
それ以上に古代の心に影を残したのは
真意がまるで見えない、大介の最期の言葉。
彼は一体、何を伝えたかったのか。

「迷惑」だったのか。
それとも、その「迷惑」が嬉しかったのか。

* * * * * *

久々に見た夢。
17年経った今も、あの言葉の意味が見えないまま。
俺は又、思い出したかの様に求め続けている。

『大介の残した最期の言葉』の意味を。

「…ん?」

視線を前に移すと、其処では次郎が桜井と
今後の航海についての
話し合いを行っている最中だった。
大切な時間。邪魔立ては出来ない。

俺はふと視線を外し、帽子のツバを下げた。
すると。

「そう云う事だから。
 桜井、テスト航海を頼んだぞ」
「了解しました、チーフ!」

俺は驚いて前を向き直した。
次郎の奴、まさか話を途中で
切り上げたんじゃないだろうな。

「艦長、お話が有ります」

艦長席までやって来た次郎の目は
何処か怒っている様な感じにも見えた。

「な…何だ?」
「後で自室に窺いますので…」
「…解った。先に行ってる」

俺は素直に頷き、そのまま艦長室へと向かった。

* * * * * *

「何ですか? 先程の態度は」

いきなり窘められた。
11歳年下の男に説教を食らうとは
幾つになっても俺は情けない奴だ。

「済まん…」
「そうではなくて…」

次郎が一つ、溜息を吐く。

「進、一人で苦しまないで下さい」
「次郎……」
「貴方のそんな表情を見る事が…
 俺は、一番辛い……」
「…次郎」
「だから、頼りにならないかも知れないけど
 もっと俺に甘えて下さい、進」

次郎の見せた笑顔は、
生前 大介がよく見せたそれとよく似ていた。

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