| Data.2-1 |
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グローブが鮮血に染まる。 流れを止める事も出来ず、見守るのみ。 段々と血の気が引いていく顔。 相反する荒い呼吸音。 「…島? 島……」 何度も呼び掛けるが、それに答える力など 本当はもう…残ってなどいなかった筈だ。 「……古、代」 「何だ? 何が言いたい、島?」 「……雪と、幸せに……」 「島……」 「これで…俺の仕事も…終わる、な…。 後は…雪に、お前のお守…任せ……」 「……」 「…疲れ…た……」 思ってもみなかった言葉に、古代の声は失われる。 死に際の悪態、とも言うべきか。 だからこそ、逆に本音とも取れる言葉。 その真意を聞く事はもう、叶わない。 今際の言葉だけに、真相は闇の中だ。 「迷惑でしかなかったのか…? お前にとって、俺は……?」 死別と云う事実だけでも重かった。 それ以上に古代の心に影を残したのは 真意がまるで見えない、大介の最期の言葉。 彼は一体、何を伝えたかったのか。 「迷惑」だったのか。 それとも、その「迷惑」が嬉しかったのか。 久々に見た夢。 17年経った今も、あの言葉の意味が見えないまま。 俺は又、思い出したかの様に求め続けている。 『大介の残した最期の言葉』の意味を。 「…ん?」 視線を前に移すと、其処では次郎が桜井と 今後の航海についての 話し合いを行っている最中だった。 大切な時間。邪魔立ては出来ない。 俺はふと視線を外し、帽子のツバを下げた。 すると。 「そう云う事だから。 桜井、テスト航海を頼んだぞ」 「了解しました、チーフ!」 俺は驚いて前を向き直した。 次郎の奴、まさか話を途中で 切り上げたんじゃないだろうな。 「艦長、お話が有ります」 艦長席までやって来た次郎の目は 何処か怒っている様な感じにも見えた。 「な…何だ?」 「後で自室に窺いますので…」 「…解った。先に行ってる」 俺は素直に頷き、そのまま艦長室へと向かった。 「何ですか? 先程の態度は」 いきなり窘められた。 11歳年下の男に説教を食らうとは 幾つになっても俺は情けない奴だ。 「済まん…」 「そうではなくて…」 次郎が一つ、溜息を吐く。 「進、一人で苦しまないで下さい」 「次郎……」 「貴方のそんな表情を見る事が… 俺は、一番辛い……」 「…次郎」 「だから、頼りにならないかも知れないけど もっと俺に甘えて下さい、進」 次郎の見せた笑顔は、 生前 大介がよく見せたそれとよく似ていた。 |