Data.2-2

「お前に…聞きたい、事が…有る…んだ…」

歓喜とは違う種類の震えを感じた。
何かを恐れている様な不安定さ。
進は又、次郎の窺い知れない場所で足掻いている。

「…何? 俺で答えられる事なら…」
「…あぁ、でも……」
「良いよ…。俺に話して…楽になれるのなら
 何でも話してくれて良いんだよ…」
「次郎……」

そのままの状態で、進は次郎を強く抱き締めた。
それ程迄に怯え切っている。

「俺は…大介にとって俺は…
 『迷惑』でしか…無かったんだろうか…?」
「…え?」
「彼奴の最期の言葉…思い出した。
 『お前のお守りは終わった。もう疲れたんだ』って…」
「…そんな莫迦な。あの大介兄さんが?」

次郎にとっても納得のいかない言葉である。
彼がどれだけ進を愛して止まなかった位
それを見守ってきた実弟ならばこそ、痛い程解る。

そんな男が『迷惑』と言い捨てたとあっては…。

「…もしか、して」
「…覚えが、有るのか? 次郎……」
「有ると言えば、有るんだ…。
 似た様な事を…確かに大介兄さん…」
「やっぱり俺は……」
「違うよ、進。そう云う意味じゃない」

次郎も又、思い出した。
当時幼かった彼にはその言葉の真意が良く解らなかったが。
今ならば…とてもそれが『島 大介』らしく思えてくる。

「俺が言われたのはね…。
 『もし、自分が死んで…その事実がとても重くなったら。
 心が折れてしまう前に、自分の事を忘れてしまえ』って」
「……大介が?」
「うん…。そうだよ…。
 『忘れる事でお前が楽になれるのなら。
 折角お前は生きているのだから、
 生きている事を楽しみなさい』って」
「……」

予感が、有ったのだろう。
大介は進以上に覚悟を秘めていたのだ。
弟が、家族が居るからこそ。

「大介兄さんは…こう伝えたかったんだ。
 『これからの人生、新たなパートナーと共に生きろ』って」
「しかし、しかし彼奴は…『疲れた』って……っ!」
「そりゃ疲れるよ。
 もう…言葉を話す事すら、困難だった筈なんだし…」
「…そう云う、意味…だったのか?
 じゃあ…俺はずっと勘違いをして……?」
「大介兄さんが進を邪険にするなんて有り得ない。
 生きて欲しいからって
 突っ撥ねたんなら話は別だけど…」
「…俺は……」

知らず知らずに溢れてくる涙。
最愛の存在が残した、自分を想う故の言葉を
表面的な形でのみ判断し、ずっと疑っていた。
そんな自分が情けなくて、憎らしくて
進はそのまま声も無く、涙を流し続ける。

「俺は…忘れない」

そっと進を包み込む様に抱き締め、次郎は呟く。

「俺は…大介兄さんを忘れたりしない。
 俺の誇りだもん。忘れる筈が無い」
「次郎……」
「だから、進も無理に忘れる事はないよ…」
「…有難う、次郎……」

柄にも無い、とは思わなかった。
次郎の広い胸に抱かれ、進は思い切り泣いた。
大介の代わりにと、自分を許してくれた次郎。
そんな彼に全てを委ねて。

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SITE UP・2010.6.2 ©森本 樹


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