| Data.2-4 |
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あれは…美雪がまだ5歳の頃だろうか。 雪が偶々学生時代の寄り合いで外泊し、 留守番として俺と2人で過ごしていた時。 美雪の寝顔を確認し、ソファで転寝をした俺は いつもの様に悪夢に魘されていた。 船の中でなら良かった。 幸い船長職の俺には個室が与えられていたし 其処でなら幾ら呻こうが喚こうが 誰の迷惑にもならなかった。 だが、自宅は違う。 ましてや…一緒に居るのはまだ幼い一人娘。 さぞかし、俺の呻き声は怖かっただろう。 叫び声に、怯えてしまっただろう。 意識の向こうで、美雪の泣き声が聞こえ… 俺は慌ててソファから飛び起きた。 そのまま部屋に駆け寄り、抱き締める。 何も言えなかった。声が出なかった。 そのまま、雪が帰って来る迄… 俺は只、美雪を抱き締めているしか出来なかった。 傷付けてしまった。 誰よりも大切な、俺の愛娘を。 その時に思い知らされた。 俺に【父親】は務まらない事。 俺では…この子を守り切れない事。 どう謝罪すれば良いのか… それすら、解らないままで、今日まで来た。 気が付くと、ベッドには俺一人。 御丁寧にシーツが裸体に掛けられている。 次郎らしい配慮に感謝し、 俺はふと…『また魘されていなかっただろうか?』 等と不安に駆られていた。 確かに次郎はあの頃の美雪とは違う。 立派な一人前の青年だ。 しかし…夢の内容が大介に関わる物だと 幾ら次郎でも良い気はしないだろう。 喪った存在は同じにして、明確に違う。 肉親を喪った者の心に、醜い傷跡は残したくない。 「次郎……」 彼奴が触れてくれた肌。 感触が其処彼処に残っている。 力強く抱き締められ、彼奴の者だと残された痣。 服を着れば見えない、 ギリギリのラインを守って付けられている。 そんな気遣いも、俺を喜ばせる。 男としても、人間としても 次郎は俺より立派に成長し、 またこれからも育っていくのだろう。 誇らしい俺の新たな恋人。 そして…心の支え。 「次郎…愛してる……」 陳腐な台詞だと心の何処かで嘲笑しながらも 俺は数回、そう唱えていた。 『愛している』と。 まるで呪文の様に俺の中に浸透し、 自信と勇気を与えてくれる。 次郎が居てくれるから、立ち上がれる。 この困難な旅も、彼奴と一緒なら戦える。 「愛してるよ…次郎……」 胸に残されたキスマークを指で辿り 俺は語り掛ける様に囁いた。 暫し、時間が止まってしまったかの様に。 |