Data.2-8

「ようこそお越し下さいました、古代艦長」
「御招待に預かり、光栄です…」

モニター越しに見るよりも肌色の色素が薄い。
血の流れが確認出来ないのは
体液も同じ色だからなのだろうか。

数多くの異性人と交流してきた古代にとって
パラチオンの肌の色は【異質】を感じさせていた。

「我が主はもう間も無く参ります。
 お疲れのところ、何も持て成さないとあっては
 我々は礼儀知らずと言われてしまいますから」
「いえ…お気になさらず…」
「そう言う訳には参りません。
 何か飲み物をお持ちしましょう。
 どうかこの一室でお寛ぎ下さい」

待つ事は別に苦痛でも無いし、
何かの持て成しを望んでいる訳でもない。
ただ、多少なりとも意見の交換が出来れば。
古代にとってはその方が有り難かった。

『生存反応は有るが…
 この宮殿の様な建造物以外は何も無い。
 荒廃した砂漠地帯が広がるだけだ…。
 流石に…此処に雪は居ない、か……』

流石にずっと突っ立って待つのも変だ。
言葉に甘え、長椅子に腰を下ろしてみる。

「雪……」

宛ての無い旅、不安だらけの航海。
若きクルー達の命を預かり、
古代自身もギリギリの状態で此処迄来た。
だが、まだ旅は終わらない。
終着駅は、この星では無かった。

「古代艦長、お飲み物を…」

声を掛けられ、意識は直ぐに現実に戻る。
優しげに微笑むパラチオンは
ワイングラスを差し出していた。

「…戴きます」
「どうそ、御遠慮無く」

流石に飲まない訳にもいくまい。
躊躇はするが、動揺だけは悟られたくなかった。
友好の為、それを信じて。
古代は少しずつ、飲み物を咽喉に流して行く。

『酒…アルコールの類か。
 少し甘味のある…果実酒か何かだろう…』

味わいながら感じるのは温度だった。
咥内から咽喉、食道…そして胃へと流れる様子が
温度によって知らされるのである。

異世界の飲み物だからだろうか。
そんな疑問が脳裏を過ぎった瞬間、
ふと古代は激しい眩暈を覚えた。
視界が歪み、音が極端に大きく聴こえてくる。

『何だ…一体、何が……?』

体の異常は其処から急速に表れた。
全身の激しい痺れと共に感覚が麻痺していく。
流石に姿勢を保てず、長椅子に体を委ねるも
体重移動が容易に出来ない為、床に崩れ落ちた。

呼吸が荒く、息をするのも辛い。
不自然に痙攣する体。
異常な体温の上昇に、発汗。

覚えが有った。
この現象は、まるで…。

『まさか…薬が、混入されていたのか…?』

計られた、と…そう確信した。
自分の直感に狂いは無かった。
だが、全ては後の祭りであった。

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SITE UP・2010.6.8 ©森本 樹


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