Data.2-9

此処で意識を失えば、どうなるか判らない。
自分はヤマトに戻るのだ。
その為にも、立ち上がらなければ。
己の足に力を篭め、もう一度。

「……かはっ…」

声は既に掠れて出てこない。
咽喉が焼けてしまったかの様に痛む。

痛い。
全身が、ただただ痛い。
熱くて、痛い。

『誰か、助けてくれ…っ』

思わず、助けを求めていた。
何よりも怖かった。
暗闇に沈む、あの悪夢を見ている様で。
たった一人で真っ暗な海に沈む…
沈んでしまう。

『助けて、くれ…次郎……』

無意識に掴んでいたのは
次郎が掛けてくれたペンダント。
指が、飾りの突起に触れる。

『じろ……』

薄れゆく意識の中で
指に力を入れたのは…現実なのか。
それとも、幻だったのか。

* * * * * *

船内はさっきから慌しい。
活気が有るのとは違って
単に落ち着きが無い。
ソワソワして、浮き足立ってる。
こんな時は大抵
何をしたって失敗するのがオチ。

今は怪我人も出てない。
特に急ぎの仕事も無い。

だから私は、そっとグラスを傾けた。
普段は頭の上に在るゴーグルを外し
そっと事務机の上に置いて。

「どう? 念願のヤマトよ。
 どんな形でも乗りたいって
 駄々を捏ねた甲斐が有ったわね」

私は思わず苦笑を浮かべた。
我ながら無茶だったと思う。
だが、御蔭で夢が叶ったのだ。
ならばそれで良しとするべきだろう。

二人分の思い。
二人分の夢。

「美晴先生」
「あ、美雪ちゃん。お疲れ様。
 美雪ちゃんもどう?」
「お…お酒、ですか?
 流石に私、まだ未成年ですし…」
「まぁ、そうよね。
 それにお父さんはお酒に弱いみたいだし
 お母さんが強くなければ
 遺伝してるかも知れないし」
「先生…」

悪びれない私の姿に
美雪ちゃんは笑っている。
良い笑顔をする子だと思ってた。
だからこそ、しかめっ面なんて似合わない。
笑ってて欲しい。
貴女はまだ若いんだから。

「美晴先生」
「ん? なぁに?」
「私ね、先生に会えて良かった」
「それはヤマトに乗れて良かったって事と
 解釈しても良いのかな?」
「それとは違うんだけど…でも…
 ヤマトに乗らなければ、先生には会えなかった。
 それは…認めるわ」
「ふふ…良いのよ、それで」
「え?」
「焦らなくても良いのよ。
 少しずつ自分の中で納得出来れば
 それが貴女の導き出した【答え】なの」
「美晴先生……」

そう、そうやって見付けるしかないの。
自分なりの【答え】って奴を。
それが大人になるって事なんだから。

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SITE UP・2010.6.9 ©森本 樹


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