Data.3-6

その瞬間、漆黒の宇宙が真っ赤に染まった。

爆音は響かなかったが
空間の圧縮を感じる。
余りの息苦しさに、気を失いそうだった。

『拙い、飲み込まれる…っ!』

操縦桿越しに、不気味な感触が広がっていく。
苛立ち、焦り、そして恐怖。
次郎の体から全ての力を奪い去るかの様に
絶望感が彼を支配しようと蠢く。

『やっぱり俺の腕では…駄目なのか?』

諦めかけていた。
もう駄目だと、負けを認めるところだった。
すると。

『まだだ』

誰かが耳元で囁く。
力強い声。

『…誰? まだだって…俺は……』
『自分の力を信じろ』
『…大介、兄さん……?』

次郎の目に眩い光の中で微笑む人影が見えた。
女性、である。

『誰…なんだ?』
『貴方々を…喪う訳にはいかないのです。
 我が子達をどうか…お願いします』
『貴女は…レガシーの、意志…?』

女性は何も答えなかった。
ただ、彼女の言葉の後
不思議な位ヤマトの操舵が楽になったのだけは
間違いの無い事実である。

* * * * * *

気が付くと、見知らぬ空間に投げ出されていた。
惑星レガシーの残骸となる筈のアステロイド・ベルトも
憎むべき敵戦艦の姿ですら、何処にも見当たらない。

「此処は…何処だ?」

次郎は不意に視線を後ろに向けた。
古代、そして仲間達も
この衝撃によって気を失ったらしい。
正気を保っていられたのは
どうやら航海長である自分だけだった様だ。

「此処は…何処なんだ?」

次郎は自身の席から情報処理機にアクセスし
航路図を照合させた。

「トレイス星系…。
 惑星レガシーの存在するプロキオ星系より
 12万光年も離れた場所、だと?」

ヤマトのワープ能力を遙かに超えた大跳躍である。
それだけでも信じられない事実であった。

「しかし…流石に地球連邦でも情報が全く無い宙域だ。
 この先、一体どうすれば……」

航海長としての責務、ヤマトの当面の安全を確認し
次郎は漸く古代の元へと歩を進めた。
逸る気持ちは勿論有ったが、
責務を放棄して介抱されたとしたら
古代にとっては迷惑この上無い話だろう。
それは、次郎自身が一番理解していた。

「艦長。大丈夫ですか?」
「…う、うぅ……」
「…艦長?」

古代の意識は戻っていたらしい。
だが、彼の苦しみ方に胸騒ぎを覚えた。

「艦長?!」
「じ…じろ……」

声は掠れ、殆ど出ていない。
そして恐ろしい事に、
彼が腰掛けている艦長席は
赤く彼の血で染め上げられていたのだ。

「まさか……?!」

思い当たる事が一つだけ有った。
次郎は古代を抱き上げると、
そのまま急いで医務室へと駆け出した。

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SITE UP・2010.11.11 ©森本 樹

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