Data.3-8

美晴は彼女と共に医務室前の廊下で待機していた。

時折部屋から響いてくる断末魔の悲鳴。
苦痛に満ちた呻き声。
幼い頃に一度だけ体験した
進の、夜中の絶叫を思い出し、
美雪は知らず知らずの内に震えていた。

「美雪ちゃん…。
 無理はしない方が良い。
 此処から離れて、他の部屋で待機を…」
「…いえ、私は…逃げません。
 だって…お父さん、戦ってるんだもの」
「美雪ちゃん……」
「私は…古代 進の娘だもの。
 これ位の事で逃げていたら…
 きっと、お母さんに笑われちゃう」
「……」

何時だって本音でぶつかれなかった父と娘。
擦れ違いばかりの中で
それでも、美雪はずっと進を追い駆けていた。
父親としての進を求め、振り向いて欲しかった。
そして…自分と母に見せて欲しかった。
本当の【古代 進】の姿を。

「お母さん……。
 お父さんを守って、お願い……」

祈るしか出来ない事は解っている。
だが、祈るという手段だけでも
残っているのであれば。
もう二度と一人ぼっちの寂しさを味わいたくは無い。
美雪も又、古代 進と雪の娘として
自ら戦う意志を固めたのである。

* * * * * *

どの位時間が経過したであろうか。

進の叫び声が全く上がらなくなり
誰かの会話がボソボソと聞こえてくるだけ。
しかしその会話内容までは聞き取れず
美雪の心に不安の影が広がっていく。

その時だった。

「コスモガン?」

確かに医務室内で誰かが
コスモガンの引き金を引いたのだ。
所持しているのは次郎しか居ないのだから
恐らく撃ったのは彼であろう。

問題は【何を撃ったか】である。
間に合わなかったのか。
父は助からなかったのか。
それとも…。

「!!」
「み、美雪ちゃんっ?!」

美晴の制止を振り切り、
美雪は医務室に飛び込んで行った。

* * * * * *

次郎の制服は赤紫の液体によって
染め上げられていた。
血飛沫、だろうか。
その飛沫は彼の頬をも汚している。

だが、不思議と彼の表情は穏やかで
嵐が去った事を物語っていた。

「島…さん……?」
「美雪ちゃん? どうして此処に?」
「コスモガンの音がしたから…
 それで、その…私……」
「お父さんの安否が心配になって
 入って来ちゃったって…訳だね」
「ご…御免なさい……。
 立ち入り禁止だって言われていたのに…」
「良いんだ。もう終わったから」
「えぇ、班長。
 このイーグァー、務めを果たしました。
 古代艦長は、もう大丈夫です」
「……本当に?」

恐る恐る病床に近付いてみると
進は疲労感こそ漂わせてはいたが
安心した表情を浮かべて
静かな寝息を立てていた。

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SITE UP・2010.11.16 ©森本 樹

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