Data.4-10

医務室に戻るや否や
美雪は机に張り付いて
必死に何かを修復している様だ。
ただ、若干不器用なのか
思った通りに再現出来ず悪戦苦闘。
口からも悪態が引っ切り無しだ。

美晴は気付かない振りを
貫こうとしたらしいが、
彼女の奮闘振りが余りに可笑しく
とうとう笑いを
堪え切れなくなってしまった。

「もぅ、さっきから何やってるの?」
「あ、美晴先生…。
 これ、お父さんの大切な写真を
 直してるんですけど…」
「これを? 直せるの?」
「頑張って直します。
 元通りには無理かも知れないけど…」
「へぇ…。あれ、この人……」

美晴の目が或る一点で止まる。
緑の矢印を胸に抱く青年。

「初代航海長、島 大介…」
「知ってるんですか? 美晴先生」
「会った事は無いけどね。
 色んな噂話は耳にしてたわ」
「そんなに凄い人だったんですか?
 この写真を見るだけじゃ
 凄く無邪気な男の人って感じだけど」
「…貴方のお父さんを【英雄】だとすると
 彼は正しく【超人】と評するに値するわ。
 数々の偉業を成し遂げた超人。
 その後釜に就かなければならない
 次郎君の苦労は
 並大抵の事じゃなかったでしょうね」
「そんなに凄い人…だったんだ…」
「お父さんかお母さんから
 彼の話は? 聞かなかった?」
「…いいえ。
 島さんからも、お兄さんの話は
 一度も聞いた事が無いんです」
「そう。残念ね…。
 でも機会が有れば、一度聞いてみると良い。
 或る意味世界観が変わる事請け合いよ」
「そうなんですか?」
「私が、そうだったから」
「……?」
「此方の話」

美晴はそう言うと
意味深に微笑んで見せた。

「美雪ちゃん」
「はい?」
「今、自分の顔を鏡に映して
 御覧なさいな。
 とっても良い表情をしてるわ」
「…そう、ですか?」
「えぇ。余計な錘が無くなって
 自由に羽ばたける様になった
 小鳥の様に軽やかよ」
「乗り越えられた、からかな?」
「そうなの。良かった…」

美晴はそれが『何か』を
問い質したりはしなかった。
もう既に理解している。
だから聞く必要等無かったのだ。

「美晴先生」
「あら、なぁに?」
「有難う御座いました。
 先生に色々とアドバイス貰ったから
 私、少しだけ
 お父さんとの距離を縮められた…」
「それは違うわ」
「え?」
「私は何もしてない。
 全て美雪ちゃんが真剣に悩み、考え、
 行動に移したから
 こうして繋がっただけなの。
 それは誇っても良い事よ」
「先生…」
「お母さんに再会するのが、
 楽しみになったわね」
「…はいっ!」

美雪は美晴と顔を見合わせ、
満面の笑みを浮かべる。
机の上にはテープで補修された写真。
今の美雪の微笑みは
写真の中で笑う彼等のそれと
非常に良く似通っていた。

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