Data.4-9

「そうですか…。
 そんな事が……」

次郎はベッドの傍らに椅子を置き
其処に腰掛けながら
古代の話を静かに聞いていた。

「美雪ちゃん…
 一人だけ何も知らないままだったんですね。
 大介兄さんの事を、何も知らないまま…」
「俺も雪も、何処かで大介の話題を
 避けていたのかも知れないな。
 彼奴の殉職を認めたくなくて…」
「……」
「俺はてっきり、
 雪から話が行ってるものだと。
 そう信じて疑いもしなかったよ。
 だから余計、美雪には
 何も話していなかったんだ」
「それでは雪姉さんが
 大変じゃないですか…。
 姉さんが進達と合流したのは
 イスカンダルへ向かう
 あの航海が最初なんでしょう?」
「…あぁ」
「だったら、それ以前から知ってる
 進の口から美雪ちゃんに話した方が
 筋が通ってるんじゃ…」
「そうなんだよな…。
 俺は雪の優しさに甘えて
 説明義務を怠っただけなんだよな…」
「……」

事切れる寸前
大介が雪に送った告白。

『君の事が、好きだったんだ…』

不意に古代は
その言葉を思い出した。

『大介にとって…
 雪はテレサと同様、いや…
 或る意味それ以上に
 特別な存在だった。
 雪だって…同じだった筈。
 大切に想っていたからこそ…
 結婚式を迎える直前
 雪は俺にこう言ったんだ』

『幸せになりましょうね。
 島君の分も……』

辛かった筈だ。
雪だって、大介の事を語るのは。
どんな思いで
それを娘に告げねばならぬのか。

今迄気付かなかった。
漸く、気付く事が出来た。
それは…大介の殉職を
事実として受け止められる様になったと
云う事なのだろうか。

「今の旅に一区切り着いたら…」
「?」
「大介の事、俺の口から
 美雪に告げようと思う」
「…そうですか。
 その方が、きっと良いですね」
「あぁ…。英雄の丘でな」
「…英雄の、丘……」
「大介だけじゃない。
 共に戦って来た仲間達の事。
 美雪には、知って欲しいんだ」
「……はい」

エゴかも知れない。
単なる我侭なのかも知れない。

だが、知って欲しかった。
自分の事、母親の事。
仲間の事。昔の事。
そして誰よりも大切に想っていた
ヤマトの誇り高き初代航海長の事。
記録に残っている表面的な事ではなく
もっと温かみの有る、親しみ易い
島 大介と云う人間の事を。

「その時は俺も呼んで下さい」
「次郎…」
「見届けたいんです。
 大介兄さんの分迄」
「俺が父親らしくなった姿を、か?」
「まぁ、そう云う事ですね」
「コイツ…」

古代は苦笑を浮かべている。
次郎は微笑みながら
優しく自身の唇を
古代の唇に重ねていった。

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