Vertriebene・4

風に煽られる焚き火の炎は
それだけで心細くさえ見えた。
宛ての無い逃避行。
帝国を敵に回した今、
無事に生きられる保障は何も無い。

アルフォンは青い月を見つめながら
一人物思いに耽っていた。

ススムとは家族ぐるみの付き合いだった。
氷の乙女の血を受けしコダーイ家の一人。
だが、それに奢る事無く謙虚に生きるススムが
彼にとってはとても大切な存在でもあった。

騎士に成りたかった訳ではない。
だが、ススムの目指す未来を傍で見たいという思いが
彼の将来を決定させた。

その結果が、この逃亡劇である。

家族は、どうなってしまっただろうか。
それすらも最早判らない。

「恨んでおられますか?」
「ん?」
「ススム様の事を」
「…そう見えるのか?」
「いえ…」

そっと音も立てずに近付いて来た
ススムの従者の姿に
アルフォンは思わず苦笑する。

名をアキラと云う、この青年は
戦乱の際に家族を失い、一人ぼっちとなった。
氷の乙女は彼を不憫に思い、
自身の息子として彼を迎え入れたと聞く。
当時としては【美談】とさえ言われた話だが
アキラは家族としてではなく
あくまでもススムの従者としての使命を選び
そして今もそれを全うしている。

「お前はどうなんだ、アキラ?
 ススムの選択に従い、此処まで来た。
 後悔は、無いのか?」
「ススム様と共に生きる事、
 そしてお守りする事が俺の存在意義です」
「其処にお前の全てを捧げる…と云う事か」
「母上様の慈悲が無ければ、当に消えていた生命。
 母上様の望みは、ススム様の御傍に仕える事でしたから」

この辺りの解釈が実にアキラらしいと
アルフォンは感心し、又 残念に思っている。
氷の乙女は従者として傍に居る事等
一度として望んではいないのだから。
解釈違いも甚だしいが、
それが貴族と平民の意識の違いと云うのならば
仕方が無い事なのかも知れない。

「アルフォン様」
「何だ?」
「ススム様は…苦しんでおられます。
 どうか、お力になって差し上げて下さい」
「…俺の力が果たして、必要かな…?」
「…え?」
「…独り言さ」

初めて会った時から感じていた。
【あの男】の存在が
ススムを含め、自分達を狂わせた。

ススムは【あの男】を選ぶだろう。
否、選んだからこそ…こうなった。
自分達から帝国を、家族を、親友を奪った【あの男】は
この事実をどう考えているのか。

「恨むとすれば…奴だよ」

乾いた視線はそのまま青い月へと向けられる。
アルフォンの呟きに、
アキラは何も答えなかった。

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SITE UP・2010.11.29 ©森本 樹

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