あれから何時間経過しただろうか。
既に怒り等は何処かへ消え去っていた。
肌を通じて伝わる温もりが
負の感情を消し去ったのか。
それとも単に、疲れたのか。
だが心は確かに軽くなっていた。
『俺は…お前と一緒に居たいだけなんだ』
苦しい息遣いの間に聞こえた、彼の言葉が
自分に冷静さを取り戻させてくれた。
住み慣れた場所を捨てざるを得なかった。
兄は、理解などしてくれなかった。
逆賊の烙印を押された瞬間、
自分の生命は無きものと諦めていた。
真っ向から否定して欲しかった。
お前が必要だと、言って欲しかった。
多分…それを告げてくれるのであれば
誰であっても良かったのかも知れない。
「いや…違う」
ススムは静かに目を閉じた。
穏やかな息遣いが聞こえてくる。
「ダイスケじゃなきゃ…駄目だった。
多分俺は…コイツに救いを求めていたんだ」
そして彼はススムの叫びを受け止め、
全てを賭けて守ろうとしている。
その想いの深さ、強さは
今迄誰もススムには見せてくれなかった。
「酷い目に遭わせて…御免な、ダイスケ。
でも俺…コレで解った。
もう、お前とは離れられない。
一緒に生きていきたいんだ……」
「…それで、良いんだよ」
「ダイスケ…? 起きていたのか?」
「先程、目が覚めたんだ」
「そう、か…。寒くない?」
「平気…と、言いたいけど…少し寒い」
背伸びをしない彼の姿勢が好きだ。
誰よりも重い宿命を背負っているのだろうが
そんな素振りを微塵にも見せない
強靭な精神力に憧れてもいる。
「その…痛む、か?
かなり切れちゃっただろう?」
「【おくすり】を使えば、治るだろう」
「た…確かにそうかも、知れないけど…」
「この痛みは…お前の心の痛み。
だから、俺は知らないといけないんだ」
「ダイスケ…」
苦しみ、悲しみ、怒り、痛み。
共有するには余りにも辛い現実。
それでもダイスケは、逃げないと言う。
「ダイスケ…」
「ん?」
「どうしてお前は…
其処迄俺に優しくなってくれるんだ?
こんなに傷付いて尚、お前は……」
「多分…【好き】だからさ、お前の事が」
「す…き……?」
「変かな?」
「いや…それは、よく判らないが……」
「どうしてかと尋ねられたら
そうとしか答えられない。
理屈じゃない。好きだから」
「ダイスケ……」
地面に伏せていたダイスケは
優しい笑みを浮かべ、そのまま
そっとススムを抱き締めた。 |