Vertriebene・8

翌朝。

宣言通り、ダイスケは長老オキタに打診した。
ススムと共に彼の元へ赴き、
己の考えを静かに述べたのである。

「今迄俺達兄弟を匿ってもらった事、
 父さん達から与えられた恩は
 一度たりとも忘れた事など有りません。
 ですが…逃亡の先に何も見出せないのであれば
 俺は、戦いの道を選びます」
「……」
「ダイスケ…」

ススムは黙って話を聞いていたが、
その空気の重さに徒ならぬ物を感じていた。

【俺達兄弟】とダイスケは言った。
彼には双子の弟、ジロウが居る。
ダイスケだけでなく、ジロウにも関係する謎。
村がその存在を賭けてでも守ろうとした物。

「ジロウを、呼んでおくれ…ユキ」
「……」
「父さん、俺は…」
「そうだな、ダイスケ。
 逃げ続けるにも限度がある。
 そして、我々が逃げた先では必ず
 戦火が広がる事になるだろう」
「えぇ。だからこそ」
「ススムよ。この話は是非お前にも聞いてもらいたい。
 そう、お前だけでなく…アルフォンやアキラにも」
「え…っ?」
「皆が知るべきなのかも知れんな」

恐らくは村長で在るオキタ自身も
事実を何時公表するべきか悩んでいたに違いない。
悩み苦しむ内に村を焼かれてしまった。
最早猶予は与えられないと、覚悟していたのだろう。

「事実を受け止めるか否かは…
 話を聞いてからでも遅くはあるまい?」
「…はい」

逃げるつもりは無かった。
だが…受け容れられるだろうか。
正直、ススムは自信が持てなかった。

* * * * * *

ユキからの呼び掛けで、
オキタの下にはジロウ、アルフォン、アキラと
村の防衛隊長を自称するサイトウが揃った。

「サイトウって…呼んでたっけ?」
「固い事言うな、若長!
 村の一大事に、俺が参加しなくてどうするんだよ」
「その【若長】もどうにかならないか?」

サイトウの調子の良い言葉に苦笑を浮かべながら
ダイスケはその視線を不安げなススムに移した。

「大丈夫だよ、ススム」
「ダイスケ…有難う……」

2人の遣り取りを横目で見ながら
アルフォンは静かに言葉を紡ぐ。

「大切なお話があると窺いました。
 それは…我々が聞いても大丈夫なのですか?」
「確かに、今迄は門外不出とし守り抜いていた秘密。
 しかし最早その事実は我等が隠した所で護り切れぬ。
 ならば此処に明かし、皆で護り抜くしかないのだよ」

オキタの視線が静かにダイスケとジロウに向けられる。
そのアクションだけで、兄弟は意味を察したらしい。
共に右手の皮手袋を外してみせる。

其処に隠されていた物は…
ススムが考えていたよりも
遙かに重い【事実】であった。

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SITE UP・2010.12.10 ©森本 樹

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