静かな村、だった。
存在している事すら判らない程に
森と同化し、ひっそりと佇んでいる。
勿論、俺達が聞いていた
不穏な雰囲気等は微塵も感じられなかった。
「ようこそ、【忘れ去られし村】へ」
白髪の見事な老人は
そう言うと、俺達の前に歩を進めた。
「村の若者が無茶をしたそうで。
村長として、一言お詫び申し上げたい」
「い…いえ、俺達の方こそ御迷惑を……」
「我が息子、ダイスケの発言通り
我々は帝国に歯向かう意志等
持ち合わせてはおりませぬ。
若き騎士よ、どうぞご安心召されよ」
「…はい」
若者、とは云っても
村を守る自衛団員らしき者は
ダイスケとサイトウ位のものだった。
女、子供、老人。
確かに、この面々で帝国に歯向かう等と
自殺行為以外の何物でもない。
では何故、帝国はこの村を?
「父さん」
「あぁ、ジロウか」
「夕餉の準備が出来ました。
お客人も、どうぞ此方へ」
ダイスケと瓜二つの青年が
やはり同じ様に優しい笑みを浮かべて
俺達を誘ってくれる。
「紹介するよ。
双子の弟、ジロウだ」
「初めまして、騎士様方。
自衛団員のジロウと申します」
「は…初めまして」
「帝国の騎士様をこの目で見るのは
初めてなんです」
ジロウはそう言うと、
不意に視線をダイスケへと向けた。
「自衛団、とは名ばかりで
実の所…兄さんとサイトウが偶に
村の外を巡回する位ですから」
「…そう、なのか?」
「えぇ」
「無闇矢鱈と、森の外に出るのは好ましくない。
特に俺達兄弟は、そうやって育てられてきました」
「……」
この兄弟を不憫に感じると共に
俺の心の中で、納得出来ない感情が生まれ始めていた。
どうして彼等が森から一歩も出られないのか。
そもそも、どうしてこの村が帝国に歯向かう等と云った
出任せが実しやかに伝えられたのか。
正に「何故?」なのである。
「ススム様…」
丁重な傷の手当てを受けたアキラとサブローが
若い女性の案内で俺達と合流する。
二人の表情にもはっきりと
【何故】の色が浮かび上がっていた。
「…善い村だな」
「本当に…そうだ……」
「皆様、とても親切にして下さいます。
刃を向けた我々に対して…」
「……そう、なんだよな。
そもそも、どうしてその刃を
俺達は彼等に向けたんだろう…?」
「それはまぁ…軍の命令だったから…」
「命令であれば…俺達は迷う事無く、
無抵抗な人々を襲っても良いんだろうか…?」
「ススム……」
焚き火の炎に目をやりながら
俺は一人、思いを巡らせていた。 |