Wandering Genie Stratege・10

「何っ?! 逃がしただと!!」

関所破りの一件はすぐさま砦に伝えられた。
報告を聞き、激昂している青年騎士を
奥の間に座する初老の男は視線で制した。

「止めよ、シーガル」
「しかしながらゴルイ将軍…」
「止めよ、と申しておる。
 元々私は、この策を快く思ってはおらぬのだ」
「将軍……」
「交易の足を止め、経済を狂わせるは愚策。
 民を思えぬ国では、民は付いて来ないものだ」

ゴルイはそう言うと、スッと立ち上がり
大きな窓越しに青空を見上げた。

「雛鳥が、巣立ちを果たしたか。
 いや、結構結構」
「ゴルイ将軍……」
「シーガル」
「はっ」
「グレッグミンスターに伝えよ。
 『モラビアに怪しき輩は姿を現さず』とな」
「は…?」
「何度も言わせるものでない」
「…は。その様に伝えます」
「うむ……」

シーガルは驚いたものの、ゴルイの意に背く気は無く
恭しく頭を垂れると執務室を後にした。

「ふふ、コダーイ家の次男坊が帝国に牙を向くとは
 流石に大帝も驚かれたであろうな…」

誰も居なくなった執務室。
ゴルイは思わず笑みを漏らして呟いた。

「我が心の友、アキコ=コダーイの血は
 マモル将軍よりもその弟の方が色濃く受け継いだのだろう。
 あの少年は覇王にすら成れる器…」

ゴルイの脳裏に過ぎるのは…
嘗て共に戦地を駆け抜けた仲間の姿。
氷の乙女、アキコ=コダーイ。
そして……。

「お前達が此処に居てくれれば…
 少なくとも、大帝をお止め出来たであろうに。
 歯痒いばかりだよ、全く…」

複雑な心境も、一人で無ければ吐き出す事も出来ず。
変わりゆく自分の主を、見守る事しか出来ぬ身に
何時しかゴルイは絶望すらしていた。

その彼に一筋の光を見出したのが
今回のススム達の行動であったのだ。

「この老いた身ではこの位しか助勢出来ぬ。
 済まぬな、少年よ……」

ススム達の国外脱出に目を瞑る事で、
少しでも彼等が生き延びられる様に。
そして何時か、力を付けて…
この混沌とした世に終止符を打てる様に。
それは【祈り】にも近い思いだった。

「生き延びるのだ、ススム=コダーイ。
 この世界は…お前の力を求めている」

* * * * * *

通り抜ける風と共に、
誰かが俺を呼んだ様な気がした。
何処かで聞いた様な、優しくて深い声。
その声が励ましてくれているのが…解る。

「あぁ…。俺は、俺達は負けない」

その声に答える様に呟く。
声の主に届くだろうか。

風よ、どうか伝えてくれ。
俺達は負けない。
必ず、この試練を乗り越えてみせる。
必ず……。

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SITE UP・2011.08.14 ©森本 樹

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