| [12] 密約 |
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それは今よりも少し前。 「リキ」 誰も居ない廊下で不意に呼び掛けられた。 大門である。 一発で松田は勘付いた。 大門がこうやって自分を呼ぶ時 眉間にいつも以上皺が寄っている時 必ず何かに悩んでいる時だ。 事件に、ではない。 自分が率いる傍若無人な部下達の事について、である。 今の状況なら十中八九『北条と姫』の事だろう。 「何ですか、団長?」 「今…時間空いてるか」 「えぇ。特に何も抱え込んじゃいませんし。 暇を持て余して困ってた所です」 クスッと松田は微笑んだ。 「何かお話が?」 「…検討付いてるんだろう、馬鹿野郎」 大門も釣られて笑みを浮かべる。 「大体の所は」 「じゃあ話が早い。 珈琲でも飲みながら話すとしようか」 「団長の驕りで? 嬉しいなぁ」 「自販機の珈琲だぞ。 アコが五月蠅くて、小遣いも満足にくれんからな」 「アコちゃんらしいや」 2人は談笑しながら自販機に向かった。 小会議室。 机の上の珈琲はすっかり冷めてしまった。 長い、長い沈黙が続く。 「困ったモンですね、ジョーも」 沈黙を破ったのは松田の方だった。 「おやっさんともその話してたんですよ」 「谷さんと?」 「えぇ」 思わず大門の口元から溜息が漏れた。 「お前はどうなんだ、リキ?」 「どうって…どっちがですか?」 「咲樹の事だが…」 「姫ですか」 徐ろに松田は煙草を取り出す。 「寧ろ気に入ってますよ。 ジョーや一兵より余程戦力になる。 頭の回転も速いし、何より…可愛いじゃないですか」 興味なさげにすら思っていた松田の方が寧ろ 咲樹の事を良く理解しているようだった。 ほぼ自分と同じ印象を抱いてるという点も 大門にとっては嬉しかった。 「何時かは気付くと思いますよ。 ジョーだって姫の事が嫌いで 突っぱねてる訳じゃないんだろうし」 「なら、良いんだがな…」 「…嗾けましょうか、俺が」 悪戯っぽく微笑み、松田は煙草に火を付けた。 「多分俺が一番適任だと思うんです。 ゲンや一兵は煽るだけだし。 ハトは姫の事 気に入ってますから この役には一番向いてません」 「嫌な役目になるぞ」 「軍団の亀裂の方が俺は嫌ですよ」 松田はそう即答した。 「チームワーク、チームワーク。 その為なら汚れ役でも何でもござれですよ、団長」 「リキ…」 改めて頼もしく思う。 飄々とした表情を浮かべるこの男を。 「じゃあ…頼めるか、リキ?」 「了解しました。 まぁ…多少は荒技も使いますけど、良いですよね。 ジョー相手だし」 「構わんよ、好きにやってくれ」 「解りました」 松田は大門に煙草を勧め 自分はゆっくりと煙を吸い込んだ。 心地良い煙の臭いがした。 松田との会話を思い出し 大門は思わず吹き出しそうになった。 保護者役を買って出てくれた松田。 結局その優しさに甘えてしまった自分。 「これではどっちが団長か判らんな…」 小さな声で、思わず苦笑する。 気を取り直し、書類に目を通す大門の姿は いつもの威厳有る団長のそれに戻っていた。 |