[15] Trauma・1

撃たれた北条はひとまず病院へ行く事になった。

自分に抱きつき、「お父さん」と呼び続け
気を失った咲樹の事が非常に気に掛る。
自分の治療そっちのけで
直ぐにでも署に向かいたい。
そんな気持ちにさえ、させた。

あんな弱い彼女を見たのは初めてだったし、
何よりも気になったのはその言葉だった。

「お父さん…?」

自分よりも年下の男に対して使う言葉ではない。
だが彼女は明らかに自分を見てそう叫んでいた。

「…済みません、俺やっぱ署に……」
「まだ手当済んでないでしょう!」

医者に怒られ、
渋々北条は染みる薬と格闘する事となった。

* * * * * *

「只今戻りました」
漸く解放され、署に戻るが
其処に咲樹の姿は無かった。

「…咲樹さんは?」
「お前を搬送した後、倒れた。
 今、一兵が看てる…」

答えたのは鳩村だった。
沈痛な面持ちで言葉を繋げる。

「何が遭ったって言うんだ?」

「団長、何か御存知なんでしょ?」
「教えて下さいよ、団長」
松田が、源田がにじり寄るが
大門は首を横に振った。

「この件に関しては
 咲樹自身の口から話すだろう。
 自分は公言出来ん」
「団長!」
鳩村が苛立ち紛れに叫ぶ。

「彼女が話したくなった時に聞いてやれ。
 自分にはそれしか言えん」

大門の一言は絶対だ。
鳩村は納得出来ないながらも口を閉ざした。

* * * * * *

「……」

彼女の顔に赤みが差してきた事もあり、
平尾は漸く安堵の溜息を吐いた。

「本当、驚いちゃったよ…」
小声でそっと呟く。

「僕よりも強いって思ってたけど
 君は君で心に大きな傷を抱いてる。
 それを今迄懸命に隠していたんだね…」

何処かで彼女を誤解していた。
こうしてみれば年相応の女性なのだ。
脆く、傷付き易い。

「…これからは無理しないで……」
平尾は聞こえない願いをそっと口にした。

「僕達、仲間だもん」

トントン

ノックが聞こえる。
静かに戸を開くと北条が立っていた。

「どうですか、一兵さん?」
「ジョーか。今眠った所」
「…そうっすか」
「じゃあ役目交替。
傍に付いててあげなよ」

「俺が…?」
「その方が彼女、安心するんじゃない?
 団長には僕から報告しておく。
 彼女が目を覚ましたら
 一度家に戻った方が良いと思うし」
「…そうっすね」

「じゃあ、頼んだよ。ジョー」
静かに平尾はその場を後にした。

* * * * * *

「う…うん……」
咲樹がやがてゆっくりと目を覚ます。

「…ジョー?」
「あぁ…」

咲樹は何が起こったのかを
懸命に思い出そうとしている。

「無理しなくても良い」
体を起こそうとする彼女を
北条は優しく抱き寄せた。

「あ…」
咲樹の顔が真っ赤になる。

「もう少し休んでろよ」
「そうはいかないわよ」
「だからって無理は…」

ガラッ

不意に誰かが入ってくる。
松田だった。

「お、御邪魔したかな?」
「リキさん…」
「……」

慣れない事をしたのを
また気拙い人に見られ
完全に北条は固まってしまっている。

「団長からの通達。
 姫は自宅に戻れってさ。
 ジョー、送って行ってやれ」
「は…はい」
北条はその状態で何とか返答する。

「リキさん、私…」
「疲れてるんだよ、姫は。
 少し休んだ方が良い」
松田の申し出に漸く咲樹は頷いた。

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SITE UP・2009.3.8 ©森本 樹

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