[16] Trauma・2

北条に送られ、どうにか咲樹は家に辿り着いた。

足取りは重く、今にも倒れてしまいそうな様子に
彼は居ても立っても居られず彼女を抱き上げる。

「えっ?」
「ちょっとの間辛抱してくれ」
そのまま力強い足取りで階段を上る。

「ジョー…」

彼の額から汗が流れる。
それでも確かな足取りと力強さは変わらない。
咲樹の瞳から涙が零れ落ちた。

* * * * * *

彼女を部屋に上げると
そのまま北条は署に戻ろうとした。

しかし。

「待って…」
震える様な声で呼び止める。

「もう少しだけで良いから…此処に居て」
「咲樹さん…」
「お願い……」

そんな目で哀願されたら断れなくなる。
北条は履きかけた靴を脱ぎ、
彼女の傍に座った。

「何か飲み物でも入れるわ」
「良いよ。俺がする」

足早に台所へ向かうと
慣れた手つきで湯を沸かし、珈琲の用意をする。

「ゆっくりしてろよ」
「…うん」

やがて2つのマグカップを持って北条が姿を現す。

「はい、これ」
「…ありがとう」
「これ位どうって事無いさ」

照れ臭さも相まってぎこちなく返事をする。
慌てて口を付けたから舌を火傷した。

「あぢっ!」
「だ、大丈夫??」

慌てたのは咲樹も同じだ。
顔と顔が接近する。

「……」
「……」

お互いに何も言わない。
何も言えない。

「あの…ね」
「?」
「聞いて、くれる? 私の話…」
咲樹は震える声でそう言った。

* * * * * *

「あぁ…」
北条は姿勢を正し、聞く体制に入った。

ボソッと咲樹は過去を語り始める。

「私…10年前に父親を亡くしてるの。
 父は西部署管轄の派出所に勤める巡査で
 町の人とも親しかった。
 私も良く派出所に遊びに行ってたわ…」
「……」

「その日も学校帰りに派出所に寄ったの。
 いつもと同じように話をして、
 家に向かって帰る途中…」

思い出したのか
咲樹の目から大粒の涙が零れ落ちる。

「派出所は大爆発したわ。
 …爆弾を仕掛けられてたって
 後に知ったの」
「誰から?」
「木暮さん…。今の課長よ。
 父とは懇意の仲だったから…」
「…そうだったのか」

「だからその時から決意してた。
 私は絶対に父の命を奪った犯人を許さない。
 この手で逮捕するんだって…」
「だから…西部署に?」
「…えぇ……」

悲壮な決意だった。
北条はどう返答して良いのか解らずにいる。

「貴方は…父によく似てる。雰囲気が…」
「え…?」
「明るくてスポーツが好きで…
活動的な人だった」

「…だからか。あの時俺を見て
 『お父さん』って…」
「御免なさい。錯乱して私、失礼な事…」
「いや、気にしてないよ」
「でも…」
「?」

咲樹の言葉が暫し止まる。

「でも…貴方に惹かれたのはそれだけじゃない」
「咲樹さん…」
「私…」

「一寸待ってくれ」
北条は手を彼女の口に当てるようにして
言葉を制す。

「その先は言うな」
「ジョー…?」

北条は何も言わない。
そして何も彼女に言わせなかった。
ただ、優しく北条は彼女を抱き締める。
その温もりが、咲樹の心に染み込んでいった。

[15]  web拍手 by FC2   [17]



SITE UP・2009.3.9 ©森本 樹

【書庫】目次